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2025年11月10日──「封印」が解かれた日
2025年11月10日、コインベースが発表した新プラットフォームは、暗号資産業界に長く携わる者たちに鮮烈な既視感をもたらした。個人投資家向けトークンセール・プラットフォームの立ち上げ──それは、2018年に米証券取引委員会(SEC)の規制強化で事実上「封印」されたICO(イニシャル・コイン・オファリング)時代の復活を意味していた。
第1弾として実施されるモナド(Monad)のMONトークンセールは、11月24日のメインネット立ち上げに先行し、11月17日から22日まで実施される。米国の個人投資家が2018年以降、初めて公開トークンセールに広く参加できるようになる歴史的瞬間である。
①「ボトムアップ方式」アルゴリズム:少額購入者への配分を優先、大口は段階的に満たす
②短期売却ペナルティ:上場後30日以内の売却者は次回配分が減少
③発行体の厳格な開示要求:プロジェクト、トークノミクス、チームの詳細開示+6カ月ロックアップ
2016-2018年ICOバブルと崩壊──何が起きたのか?
2016年から2018年にかけて、ICOは暗号資産業界における主要な資金調達手段だった。イーサリアムのスマートコントラクト技術により、誰でも独自トークンを発行し、世界中の投資家から資金を調達できるようになった。この期間、数十億ドルが調達され、一部のプロジェクトは数時間で数億ドルを集めた。
しかし、その多くは詐欺や実現不可能なプロジェクトだった。ホワイトペーパーだけ立派で、実際の開発は進まず、資金だけ持ち逃げするケースが続出した。2018年、SECが本格的な取り締まりに乗り出し、「多くのトークンは未登録証券である」と見なして規制を強化した。ICO時代は事実上終焉し、個人投資家は新規トークンへの投資機会を失った。
7年の空白──規制環境の地殻変動
2018年から2025年までの7年間、暗号資産市場は大きく変化した。ビットコイン現物ETFが2024年に承認され、機関投資家の参入が本格化した。トランプ政権が仮想通貨に友好的な姿勢を示し、SECも規制方針を明確化し始めた。
コインベースは「これは米国政策史上最も仮想通貨に友好的な政府だ」と評価し、「透明性と持続可能な成長機会を優先する新しい仮想通貨環境の構築に期待している」と述べた。規制の明確化が、個人投資家への門戸再開を可能にしたのである。
コインベースは「先着順の販売とは異なり、当社のトークンセール設計は少数ではなく多数を優先する」と説明した。従来のICOでは、ボットや大口投資家が瞬時にトークンを買い占め、一般投資家は参加できないケースが多かった。新プラットフォームは「ボトムアップ方式」のアルゴリズムを採用し、少額購入者への配分を優先しながら供給が尽きるまで大口購入者の注文を段階的に満たす。公平性と民主化を重視した設計である。
モナド(Monad)──第1弾に選ばれた理由
第1弾として選ばれたモナド(Monad)は、新世代レイヤー1ブロックチェーンとして注目されている。1秒間に1万トランザクションを処理できる高速性と、イーサリアム仮想マシン(EVM)との互換性を備えた「スケーラブルなEVMネットワーク」を目指している。
11月24日のメインネットローンチに先行してトークンセールを実施することで、初期コミュニティの形成とネットワーク効果の獲得を狙う。中央集権型取引所のクラーケンは初日からの取り扱いを発表しており、流動性の確保も見込まれている。
コインベースがモナドを第1弾に選んだ理由は、技術的信頼性とチームの透明性にある。発行体には詳細な開示が求められ、6カ月間のロックアップ期間が設定されている。この間、チームメンバーや関係者は店頭取引や二次市場での売却が制限される(コインベースの承認と公開開示が必要)。
エコー買収との関係──3億7,500万ドルの布石
コインベースは2024年10月、オンチェーン資金調達プラットフォームのエコー(Echo)を約3億7,500万ドルで買収していた。エコーは著名な仮想通貨トレーダーのジョーダン・フィッシュ(Cobieとして知られる)が設立し、プロジェクトがコミュニティから直接資金調達できるソナー・プラットフォームを運営していた。
コインベースの広報担当者は新プラットフォームが「エコー・ブランドとは独立・分離している」と述べたが、技術基盤やノウハウの活用は明らかだ。エコー買収は、トークンセール・プラットフォーム立ち上げの戦略的布石だったのである。
コインベースは「月1回程度のペースでトークンセールを実施する予定」と発表した。これは一過性のイベントではなく、継続的な資金調達エコシステムの構築を意味する。新興プロジェクトにとっては正規の資金調達ルートが開かれ、個人投資家にとっては早期参入機会が提供される。規制に準拠した形でICO時代の「良い部分」だけを復活させる試みである。
「短期売却ペナルティ」が示す長期志向
新プラットフォームの特徴的な仕組みが、上場後30日以内にトークンを売却したユーザーは、次回以降のセールで配分が減少するというペナルティである。
これは明確なメッセージだ。コインベースが求めているのは「短期転売で儲ける投機家」ではなく、「プロジェクトを長期的に支援するコミュニティメンバー」である。ICOバブル期の反省を踏まえ、持続可能なトークンエコノミクスの構築を目指している。
【ビットコイン予備校の視点】歴史は繰り返さない、韻を踏む
マーク・トウェインの言葉に「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」というものがある。2025年のトークンセール復活は、2016-2018年のICOバブルの「繰り返し」ではない。しかし、「韻を踏んでいる」のは確かだ。
違いは何か? 規制の明確化、透明性の要求、長期志向の設計である。コインベースという規制準拠の取引所がプラットフォームを提供し、発行体には厳格な開示が求められ、投資家には長期保有のインセンティブが与えられる。
初心者投資家が理解すべきは、「新しいものは必ず過去の何かと似ている」が、「似ているからといって同じ結果になるわけではない」ということだ。ICOバブルの教訓を活かし、規制環境が整備された2025年のトークンセールは、より持続可能で健全な資金調達エコシステムを構築する可能性がある。
ただし、リスクは依然として存在する。新興プロジェクトへの投資は本質的にハイリスクであり、モナドのような技術的に優れたプロジェクトでも成功が保証されているわけではない。重要なのは、プロジェクトの技術的信頼性、チームの透明性、トークノミクスの持続可能性を自ら評価する能力を養うことだ。






