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この記事で分かること

• チェコ国立銀行が中央銀行として世界初のビットコイン購入を実施
• 100万ドルの試験的ポートフォリオの構成内容と目的
• 中央銀行がビットコインを保有する歴史的意義
• ECB総裁の反対を乗り越えた経緯と今後の展望

 

2025年11月13日、金融史に新たな1ページが刻まれた。チェコ国立銀行(CNB)が、中央銀行として世界で初めてビットコインを公式に購入し、そのバランスシートに組み込んだのだ。投資額は100万ドル(約1.5億円)──金額としては決して大きくないが、その意味するところは計り知れない。

 

何を買ったのか──100万ドルのポートフォリオの中身

 

CNBが作成した試験的ポートフォリオは、単なるビットコイン購入ではない。デジタル資産の多様性を検証するため、3つの異なる資産クラスで構成されている。

 

• ビットコイン(BTC)──分散型デジタル資産の代表格
• 米ドル建てステーブルコイン──法定通貨と連動する安定性
• トークン化預金──従来の銀行預金のブロックチェーン版

 

10月30日の理事会で承認されたこの購入は、既存の外貨準備とは完全に分離して管理される。CNBは「デジタル資産の保有に関する実践的な経験を得ること、および必要な関連プロセスを実装・テストすることが目的」と明確に述べており、投機的な投資ではなく、あくまで金融インフラの未来を見据えた実験であることを強調している。

 

2〜3年かけて何をテストするのか

 

この実験で注目すべきは、単に「ビットコインを持つ」だけではなく、中央銀行がデジタル資産を扱う際の包括的なオペレーションを検証する点だ。

 

• デジタル資産の購入・保有・管理における一連のプロセス構築
• 秘密鍵の技術管理と多層承認プロセスの確立
• 危機シナリオ発生時のセキュリティメカニズムの検証
• マネーロンダリング対策コンプライアンスの実践的確認

 

評価は2〜3年後に行われ、その結果次第で、将来的にデジタル資産を正式な準備金の一部とするかどうかが判断される。つまりこれは、中央銀行の未来を左右する壮大な社会実験なのだ。

 

ECB総裁の冷ややかな反応を乗り越えて

 

実はこの構想、今年1月にアレシュ・ミヒル総裁が初めて提案した際、欧州中央銀行(ECB)のクリスティーヌ・ラガルド総裁から一蹴されている。ラガルド総裁は「ビットコインがEU加盟国の準備資産になることはない」と断言し、伝統的な金融システムの守護者としての立場を鮮明にした。

 

「2025年1月に試験的ポートフォリオを作成するという案を思いついた。目的は、中央銀行の観点から分散型のビットコインをテストし、我が国の準備金の多様化におけるその潜在的な役割を評価することだった」
──アレシュ・ミヒル CNB総裁

 

しかしミヒル総裁は諦めなかった。チェコはEUに加盟しているもののユーロを導入していないという独自の立場を活かし、外貨準備の枠外という形で実質的にビットコイン保有を実現したのだ。これはチェコおよび欧州の法律に完全に準拠しており、法的・政治的な制約を創造的に回避した見事な戦略と言える。

 

なぜこのニュースがこれほど重要なのか

 

■ 中央銀行の準備資産──数百年続いた常識への挑戦

 

中央銀行の準備資産といえば、何世紀にもわたって金(ゴールド)、外貨、国債という3つの柱で構成されてきた。これらは長い歴史の中で「価値の保存手段」として揺るぎない地位を確立してきた資産だ。

 

一方、ビットコインは2009年の誕生からわずか16年しか経っていない。CNB自身も「実績が短く、現時点では未成熟な資産」と認めている。それでもなぜ、中央銀行という保守的な組織がビットコインに手を伸ばしたのか?

 

■ 「後から追いつく」では遅すぎる──金融インフラの大転換

 

ミヒル総裁の発言には、単なる投機を超えた深い洞察がある。「将来的には、タップ一つでトークン化された国債を簡単に購入できるようになる」──これは金融インフラそのものが根本から変わるという確信に基づいた発言だ。

 

従来の金融システムを思い出してほしい。国債を購入するには証券会社で口座を開設し、複雑な手続きを経て、決済完了まで数日待つ必要があった。最低投資額の制約もあり、一般の人々には高いハードルがあった。

 

ところがトークン化された世界では、スマホで1タップするだけで数秒で決済が完了し、100円からでも投資できるようになる。この劇的な変化が目の前に迫っている今、中央銀行が「様子を見てから」と傍観していては、金融システムの中核を担う存在としての役割を果たせなくなる。

 

■ 100万ドルという「絶妙すぎる」金額設定の妙

 

CNBの外貨準備は約1,400億ドル。それに対して今回の投資額100万ドルは、わずか0.0007%にすぎない。

 

この金額設定は戦略的に非常に巧妙だ。もし実験が失敗に終わっても、金融システム全体への影響は実質的にゼロ。しかし成功すれば、「中央銀行がビットコインを保有できる」という歴史的な前例が確立される。リスクは最小限に抑えながら、最大のインパクトを狙った絶妙なバランスと言えるだろう。

 

2〜3年後の評価次第では、他の中央銀行も「チェコが成功したなら」と追随する可能性がある。100万ドルという小さな一歩が、金融史の大きな転換点になるかもしれない。

 

■ ユーロ非加盟という「自由」が生んだ歴史的実験

 

チェコがユーロを導入していない背景には、国民投票で過半数の支持が得られなかったという事情がある。しかしこの「独立性」こそが、今回のビットコイン購入を可能にした。

 

ユーロ圏の中央銀行はECBの強い影響下にあり、ラガルド総裁が明確に反対している以上、同様の実験を行うことは事実上不可能だっただろう。チェコ中銀は「準備金の枠外」という形で実質的にビットコイン保有を実現し、法的・政治的な制約を創造的に回避してみせた。この手法は、他の中央銀行にとっても参考になる貴重な事例となるはずだ。

 

補足:トークン化預金とは

トークン化預金とは、従来の銀行預金をブロックチェーン上のトークンとして表現したもの。預金の利便性(元本保証、利息)とブロックチェーンの特性(透明性、即時決済、プログラマビリティ)を組み合わせた次世代の金融商品だ。CNBは今回の実験で「ステーブルコインとトークン化預金の違い」も実践的に検証する予定で、両者の使い分けや規制上の扱いについて貴重な知見が得られると期待されている。

 

金融史の転換点となるか──今後の展望

 

今回の実験は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の研究とも密接に関連している。一見すると、ビットコインのような分散型資産と、中央銀行が管理するデジタル通貨は正反対の存在に思える。

 

しかしブロックチェーン技術の実践的理解という観点では、両者には共通する部分が多い。秘密鍵の管理、スマートコントラクトの活用、デジタル資産の決済プロセス──これらの実務経験は、将来的なCBDC導入に向けた貴重な財産となる。

 

CNBのこの挑戦が成功すれば、「中央銀行は金とドルだけを持つべき」という数百年続いた常識が、音もなく書き換えられる瞬間を私たちは目撃することになるだろう。2〜3年後の評価結果に、世界中の金融関係者が注目している。

 

参照元

 

CoinDesk Japan「チェコ、中銀として初めてビットコインを購入
CoinPost「チェコの中銀、試験的にビットコインを購入 ステーブルコインやトークン化預金も保有へ
BITTIMES「チェコ国立銀行、歴史上初のビットコイン購入|暗号資産の試験的ポートフォリオを構築

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