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2025年11月11日──機関投資家に開かれた「収益の扉」
2025年11月11日、米財務省と内国歳入庁(IRS)が発表した新ガイダンスは、暗号資産市場における「静かな革命」の始まりを告げるものだった。仮想通貨上場投資商品(ETP/ETF)がデジタル資産をステーキングし、その報酬を個人投資家と共有できるという内容である。
一見すると技術的で地味な規制変更に見えるが、その影響は計り知れない。イーサリアム(ETH)、カルダノ(ADA)、ソラナ(SOL)など主要アルトコインのETFが、従来の「価格上昇のみ」から「ステーキング報酬+価格上昇」という二重の収益構造を手に入れたのだ。スコット・ベッセント財務長官は「投資家の利益を拡大し、イノベーションを促進し、米国のリーダー的地位を維持する」と述べた。
①ステーキング可能な仮想通貨ETFが対象:ETH、ADA、SOLなどPoS銘柄
②税務枠組みの明確化:ファンド発行体が規制に準拠した形でステーキングを統合可能
③投資家への報酬分配が合法化:直接保有せずにステーキング報酬を獲得できる
なぜ「ステーキング」が機関投資家に重要なのか?
ステーキングとは、プルーフ・オブ・ステーク(PoS)ブロックチェーン上でトークンをロックし、取引検証に貢献する見返りに定期的な報酬を得る仕組みだ。年率換算でイーサリアムは約3〜5%、ソラナは約6〜8%、カルダノは約4〜6%の報酬が得られる。
従来、機関投資家がステーキング報酬を得るには、暗号資産を直接保有し、自らノードを運用するか、カストディアンを通じてステーキングサービスを利用する必要があった。しかし、規制上の不透明性、税務処理の複雑さ、セキュリティリスクなどが障壁となっていた。
新ガイダンスにより、ETFを通じて間接的にステーキング報酬を獲得できるようになった。機関投資家は規制された投資商品を購入するだけで、暗号資産の直接保有リスクを負わずにステーキング収益を享受できるのだ。
SECガイダンスから財務省承認まで──3カ月の布石
今回の財務省の措置は、突然降って湧いた話ではない。2025年8月、証券取引委員会(SEC)が「特定のリキッドステーキング活動が有価証券に該当しない」と明確化していた。プロトコルレベルのステーキングと「ステーキング受領トークン」の発行が投資契約に関連しない限り、SECの管轄外であると確認したのだ。
この8月のSECガイダンスでは、リド(Lido)、マリネード・ファイナンス(Marinade Finance)、ジト・ソル(Jito Sol)、ステークワイズ(StakeWise)などのリキッドステーキングサービスが証券法適用除外の対象となった。SECのヘスター・パース委員は「混乱を削減することを目的としている」と述べていた。
そして3カ月後の11月、財務省が税務面での明確化を行った。規制面(SEC)と税務面(IRS)の両輪が揃ったことで、ファンド発行体は安心してステーキング機能をETFに統合できる環境が整ったのである。
2024年7月に承認されたイーサリアム現物ETFは、ビットコインETFと比較して資金流入が低調だった。理由の一つが「ステーキング報酬が得られない」という制約である。イーサリアムを直接保有すれば年率3〜5%の報酬が得られるのに、ETFでは価格上昇のみに依存せざるを得なかった。新ガイダンスにより、この競争劣位が解消される。イーサリアムETFの魅力が飛躍的に向上し、機関投資家の資金流入が加速する可能性が高い。
「透明性と持続可能な成長」──規制の成熟が示す市場の転換
暗号資産市場は長年、「規制の不透明性」に悩まされてきた。2018年のICO取り締まり、2021年のコインベースへのSEC提訴検討、2022年のテラ・ルナ崩壊後の規制強化──市場参加者は常に「次に何が規制されるのか」という不安を抱えていた。
しかし、2025年のトランプ政権は明確に「仮想通貨に友好的」な姿勢を示している。コインベースは「これは米国政策史上最も仮想通貨に友好的な政府だ」と評価した。今回の財務省のガイダンスも、その方針の一環である。
規制の明確化は、短期的には制約に見えるが、長期的には市場の成熟と拡大を促す。機関投資家が参入するには、税務処理、法的リスク、コンプライアンス体制が明確である必要がある。新ガイダンスは、その「安心材料」を提供したのだ。
リキッドステーキングサービスへの波及効果
新ガイダンスの恩恵を受けるのは、ETFだけではない。リド、マリネード・ファイナンス、ジト・ソルなどのリキッドステーキングサービスも、規制上の正当性を獲得した。
リキッドステーキングとは、ステーキング中の資産を流動性のあるトークンに変換し、DeFi(分散型金融)で活用できる仕組みだ。従来のステーキングでは資産がロックされて流動性を失うが、リキッドステーキングではステーキング報酬を得ながら別の投資機会にも参加できる。
SECと財務省の承認により、これらのサービスが「グレーゾーン」から「規制適合」へと格上げされた。機関投資家やファンドが、リキッドステーキングを正式な運用戦略として採用できる環境が整ったのである。
「この措置は投資家の利益を拡大し、イノベーションを促進し、米国のリーダー的地位を維持する」──ベッセント長官の発言は、単なる規制の技術的調整ではなく、米国が暗号資産市場のグローバルリーダーシップを握る戦略であることを示している。欧州やアジアが規制強化で市場を萎縮させる中、米国は「明確なルールの下での自由な成長」を選択した。
【ビットコイン予備校の視点】投資家が押さえるべき本質
このニュースから学ぶべきは、「規制の明確化が市場を成熟させる」というプロセスである。暗号資産市場は2017年のICOバブル、2021年のDeFiバブルと、規制の不在がもたらす過熱と崩壊を繰り返してきた。
しかし、2025年の状況は異なる。SECと財務省が協調してステーキングの規制枠組みを整備し、機関投資家が安心して参入できる環境を構築している。これは「バブル」ではなく、「持続可能な成長基盤の構築」である。
初心者投資家が注目すべきは、短期的な価格変動ではなく、こうした制度整備の積み重ねだ。イーサリアムやソラナが「投機対象」から「機関投資家の正式な運用資産」へと移行しつつある──この長期トレンドを理解することが、賢明な投資判断の基礎となる。








