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2025年11月──新興国が示す「第三の道」
2025年11月、中央アジアの新興国カザフスタンが、暗号資産業界に大きな衝撃を与える計画を発表した。5億〜10億ドル規模の国家仮想通貨準備基金を2026年初頭までに設立するというのだ。資金源は海外から押収または返還された資産と、国営マイニング事業からの収益で構成される。基金はビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などの主要暗号資産に投資し、さらに仮想通貨関連ETF(上場投資信託)にも資金を振り向ける予定だ。
この動きは、先進国と新興国の暗号資産戦略における「第三の道」を示している。米国のように民間企業主導で市場を発展させるのでもなく、中国のように規制で締め付けるのでもない──カザフスタンは国家主導で暗号資産を戦略的資産として組み入れる道を選んだのである。
①規模5億〜10億ドル:新興国としては異例の大規模投資、2026年初頭運用開始予定
②資金源の独自性:押収・返還資産と国営マイニング収益を活用、財政負担を最小化
③投資対象の多様性:BTC、ETHなど主要通貨に加え、仮想通貨関連ETFにも投資
「押収資産」という隠れた宝の山
カザフスタン準備基金の最も興味深い点は、その資金源にある。「海外から押収または返還された資産」とは、麻薬取引、マネーロンダリング、汚職などの犯罪行為で押収された資金を指す。こうした資産は通常、国庫に納められるか、犯罪対策予算に充当される。
しかし、カザフスタンはこれを「戦略的投資資金」として活用する道を選んだ。押収資産の正確な規模は公表されていないが、国際的な犯罪対策協力の枠組みの中で、カザフスタンが受け取る資産は年間数億ドル規模に達するとみられる。
この資金源には重要な意味がある。財政負担を伴わずに、リスク資産への投資が可能だからだ。仮に暗号資産市場が暴落しても、失うのは「もともと国庫に入る予定のなかった資金」であり、納税者への説明責任は最小限で済む。
国営マイニング事業──エネルギー大国の戦略
もう一つの資金源が、国営マイニング事業からの収益である。カザフスタンは豊富な石炭と天然ガス資源を持つエネルギー大国だ。2021年、中国政府がビットコインマイニングを全面禁止した際、多くのマイニング企業がカザフスタンに移転した。一時期、カザフスタンは世界第2位のビットコインマイニング拠点となった。
しかし、2022年以降、カザフスタン政府はマイニング企業への課税を強化し、電力供給の優先順位を下げた。これは無秩序なマイニングブームが電力インフラに負担をかけたためだ。その後、政府は「管理されたマイニング事業」へと方針転換した。
国営マイニング事業は、政府が直接管理するマイニングファームを運営し、その収益を国家予算に組み入れる仕組みだ。マイニングで得たビットコインを即座に売却せず、準備基金の一部として保有することで、将来的な価格上昇の恩恵を受けられる。
2021年、エルサルバドルがビットコインを法定通貨に採用した際、世界は驚愕した。しかし、その後の展開は必ずしも順調ではなかった。IMF(国際通貨基金)からの融資条件として、ビットコイン法定通貨の撤回を求められる事態となった。カザフスタンの準備基金は、エルサルバドルのような「急進的な全面採用」ではなく、「慎重な戦略的投資」という道を選んでいる。法定通貨とはせず、国家資産の一部として保有する──このバランス感覚が、カザフスタンの現実的な判断を示している。
新興国の「ドル依存」からの脱却戦略
カザフスタンが国家仮想通貨準備基金を設立する背景には、「ドル依存からの脱却」という戦略的意図がある。新興国の多くは、外貨準備の大部分を米ドル建て資産(米国債など)で保有している。これは安全性が高い反面、米国の金融政策に左右されるというリスクがある。
2022年のロシア・ウクライナ戦争では、欧米がロシアの外貨準備を凍結した。この出来事は、多くの新興国に「ドル建て資産の政治的リスク」を認識させた。カザフスタンは地理的にロシアと中国の狭間にあり、地政学的リスクに敏感だ。
ビットコインやイーサリアムなどの分散型暗号資産は、特定国の政府が凍結できないという特性を持つ。カザフスタンが準備基金に暗号資産を組み入れるのは、単なる投機ではなく、地政学的リスクヘッジという側面がある。
仮想通貨ETFへの投資──間接保有のメリット
カザフスタン準備基金が興味深いのは、暗号資産の直接保有だけでなく、仮想通貨関連ETFにも投資する点だ。2024年にビットコイン現物ETFが米国で承認され、2025年にはイーサリアムやソラナのETFも上場した。これらのETFを通じて間接的に暗号資産を保有することで、カザフスタンは以下のメリットを得る。
①カストディリスク(保管リスク)の低減:暗号資産を直接保有する場合、ウォレットの秘密鍵管理が重要だが、ETFならカストディアンが代行する。
②流動性の確保:ETFは証券取引所で売買できるため、暗号資産取引所を経由せずに換金できる。
③規制上の柔軟性:暗号資産の直接保有は国際的な規制対象となりやすいが、ETFは「証券投資」として扱われるため、規制上のハードルが低い。
カザフスタンが2026年初頭という明確なタイムラインを示したことは重要だ。新興国の政策は往々にして「計画倒れ」に終わるが、カザフスタンは具体的な実行計画を持っている。押収資産とマイニング収益という既存の資金源を活用し、新たな財政負担を最小化する設計は、実現可能性が高い。2026年初頭の運用開始は、単なる「宣言」ではなく、実行可能なロードマップに基づいていると見られる。
他の新興国への波及効果
カザフスタンの動きは、他の新興国にも波及する可能性がある。アゼルバイジャン、ウズベキスタン、トルクメニスタンなど、中央アジアのエネルギー資源国は、似たような条件を持っている。また、中東の産油国(アラブ首長国連邦、サウジアラビアなど)も、ドル依存からの脱却を模索している。
新興国にとって、カザフスタンの準備基金は「成功事例」のテストケースとなる。2026-2027年の運用実績が好調であれば、他国も追随する可能性が高い。逆に失敗すれば、新興国の暗号資産戦略は後退するだろう。
カザフスタンの挑戦は、単に一国の政策にとどまらず、新興国全体の暗号資産戦略のモデルとなる可能性を秘めている。
【ビットコイン予備校の視点】国家レベルの採用が意味するもの
このニュースから初心者が学ぶべきは、「国家が暗号資産を戦略的資産として認識し始めた」という事実である。2017-2021年の暗号資産ブームは、主に個人投資家と一部の企業が牽引していた。しかし、2024年以降、機関投資家(年金基金、ヘッジファンド)が参入し、2025年には国家レベルでの採用が始まった。
カザフスタンの準備基金は、エルサルバドルのような「急進的な全面採用」ではなく、「慎重な戦略的投資」という現実的なアプローチだ。押収資産と国営マイニング収益という既存資金を活用し、財政リスクを最小化しながら、暗号資産市場の成長の恩恵を受ける──この「リスク管理された採用モデル」は、他の新興国にとっても参考になる。
初心者投資家が理解すべきは、暗号資産が「投機対象」から「戦略的資産」へと移行しつつあるという長期トレンドだ。国家レベルでの採用が進めば、市場の流動性とボラティリティは安定化し、より多くの機関マネーが流入する。カザフスタンの挑戦は、その転換点を象徴する出来事として、歴史に刻まれるだろう。
参照元
- カザフスタン、押収資産とマイニング収益を活用し国家仮想通貨準備基金を創設へ – NEXTMONEY
- カザフスタン、最大10億ドルの暗号資産準備基金を設立へ、押収資産とマイニング収益活用で=報道 – Yahoo!ニュース
- カザフ、最大10億ドルの仮想通貨準備基金設立へ 2026年初頭立ち上げ予定 – Yahoo!ファイナンス
- カザフスタン、2026年までに10億ドルの暗号通貨準備を形成予定 – Bitcoin.com









