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2025年11月11日──沈黙を破った「フィースイッチ」
2025年11月11日、分散型取引所(DEX)の絶対王者ユニスワップ(Uniswap)が、暗号資産業界を震撼させる提案を発表した。創業者ヘイデン・アダムス氏、Uniswap Labs、Uniswap Foundation共同で公表された「UNIfication Proposal(統合提案)」は、長年議論されながらも実現しなかった「フィースイッチ(Fee Switch)」を正式に有効化し、プロトコル収益をUNIトークンのバーン(焼却)とエコシステム成長へ循環させる内容だ。
発表後24時間でUNI価格は約30%急騰し、一時9ドル台をつけた。市場はこの提案を「DeFiトークンエコノミクスの転換点」として歓迎したのである。
①フィースイッチの有効化:プロトコルが取引手数料の一部を徴収し、UNIバーンへ回す
②組織の統合:Uniswap FoundationをLabsへ統合、2026年から年間2,000万UNIをエコシステム成長予算に配分
③手数料の撤廃:Uniswap LabsのUI・Wallet・APIの手数料を0%に引き下げ、プロトコル採用拡大へ完全シフト
「フィースイッチ」とは何か──5年越しの実現
ユニスワップは2018年の誕生以来、取引手数料を100%流動性提供者(LP)に分配してきた。これはDEXの基本モデルであり、LPが資金を預けるインセンティブとなっていた。しかし、プロトコル自体は手数料収入を得ておらず、開発資金はベンチャーキャピタルからの資金調達とUNIトークンの売却に依存していた。
「フィースイッチ」とは、プロトコルが手数料の一部を徴収する仕組みだ。株式市場における「配当」に似た概念で、プロトコルの価値をUNIトークンに還元する手段として、2020年のユニスワップv2時代から議論されてきた。
しかし、実現は先延ばしされ続けた。創業者アダムス氏は、その理由を「米国規制と法務対応コスト」と説明している。米証券取引委員会(SEC)が暗号資産を有価証券とみなす姿勢を強めていた2018-2024年の環境下では、フィースイッチの有効化がSECの追加規制を招くリスクがあった。
状況が変わったのは2025年。SECがユニスワップラボへの調査を終了し、トランプ政権が暗号資産に友好的な姿勢を示したことで、規制環境の変化とガバナンス体制の整備により実行が可能になったのである。
年間27億ドルの手数料経済──UNIバーンの破壊力
ユニスワップで発生するスワップ手数料総額は、DeFiLlamaのデータによれば年間27億ドル超に達する。この巨額の手数料経済の一部が、初めてUNIトークンの供給削減に直結する仕組みが導入されるのだ。
バーン(焼却)とは、トークンを永久に流通から排除する行為だ。株式市場における「自社株買い」に類似しており、流通量が減少することで残存トークンの相対価値が向上する。ユニスワップの提案では、プロトコルが徴収した手数料でUNIを市場から買い戻し、焼却するメカニズムが構築される。
仮にプロトコルが手数料の10%を徴収すると仮定すれば、年間2.7億ドル相当のUNIがバーンされる計算になる。UNIの現在の時価総額は約80億ドルであり、年間3%以上の供給削減が継続的に行われることになる。
提案には「Protocol Fee Discount Auction(PFDA)」という新機構も含まれている。これはMEV(最大抽出可能価値)の一部をプロトコルに内部化し、UNIバーンへ回す仕組みだ。MEVとは、ブロックチェーンの取引順序を操作して利益を得る行為であり、従来はマイナーや取引ボット運営者が独占していた。PFDAにより、ユニスワップはこの「隠れた収益源」を自らのエコシステムに還元できるようになる。LP収益を改善しつつ、プロトコル収益も確保する──この二兎を追う設計が、UNIfication提案の真骨頂である。
DeFiトークンの「配当モデル」への転換
UNIfication提案が示すのは、DeFiトークンの価値モデルの根本的転換である。従来、DEXのガバナンストークンは「投票権」としての機能が中心で、直接的なキャッシュフローを生まなかった。そのため「ガバナンス権だけでは価値が薄い」という批判が常にあった。
しかし、フィースイッチとバーンの組み合わせにより、UNIは「プロトコル収益を反映するトークン」へと進化する。これは従来の株式における「配当」モデルに近く、機関投資家が価値評価しやすい構造だ。
ユニスワップのような大手プロトコルがこのモデルを採用すれば、他のDeFiプロジェクトも追随する可能性が高い。PancakeSwap、Curve Finance、Balancerなど、主要DEXがフィースイッチを導入すれば、DeFi市場全体のトークンエコノミクスが「投機」から「投資」へと成熟する転換点となる。
「規制の明確化」が可能にした戦略転換
UNIfication提案の背景には、2025年の規制環境の劇的な変化がある。2024年8月、SECがユニスワップラボへの調査を終了し、DeFiプロトコルへの訴訟リスクが大幅に低下した。さらに、トランプ政権が暗号資産に友好的な姿勢を示し、「明確なルールの下での成長」を支持する方針を打ち出した。
アダムス氏が「規制環境の変化とガバナンス体制の整備により実行が可能になった」と述べたのは、こうした文脈を指している。2018-2024年の「規制の不透明性」が、DeFiプロトコルの戦略を制約していた。しかし2025年、その制約が解かれたのである。
「コミュニティメンバーの多くは、フィースイッチがもっと早く有効化されるべきだったと考えている。UNI保有者は数年分の手数料収入を逃してきた」──アダムス氏のこの発言は、5年越しの実現への決意と、過去の機会損失への自覚を示している。ユニスワップは累計4兆ドルの取引量を誇るが、その手数料収入はすべてLPに分配され、プロトコル自体は1ドルも受け取っていなかった。UNIfication提案は、この「異常な状態」を正常化する試みである。
【ビットコイン予備校の視点】トークンエコノミクスの成熟を読み解く
このニュースから初心者が学ぶべきは、「トークンの価値がどこから生まれるか」という本質である。2017-2021年のDeFiバブル期、多くのトークンは「将来の期待」だけで価格が決まっていた。実際のキャッシュフローや収益モデルは二の次だった。
しかし、ユニスワップのUNIfication提案は、「プロトコルの収益→トークンのバーン→供給削減→価値向上」という明確なロジックを示している。これは株式市場の「配当」や「自社株買い」と同じ、伝統的金融における価値創造のメカニズムだ。
暗号資産投資において重要なのは、短期的な価格変動ではなく、長期的なトークンエコノミクスの健全性を見極めることだ。ユニスワップが年間27億ドルの手数料経済を持ち、その一部をUNIバーンに回す──この「持続可能な価値循環モデル」を理解することが、賢明な投資判断の基礎となる。
DeFi市場は「投機」から「投資」へと成熟しつつある。ユニスワップのUNIfication提案は、その歴史的転換点を象徴する出来事として、後世に記録されるだろう。








