ミサキの0からクリプト|第19話
塾長(黒田慎吾)プロフィールを見る
ビットコイン予備校の運営者兼相談役。
Web事業運営とクリプト実務を経験し、目立つ数字や高利回りを先に見て出口確認が遅れた自身の失敗を、初心者に繰り返させないために相談に乗っている。答えを急がせず、ミサキが自分で確認質問を作れるように、順番を整えることを大事にしている。
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資産運用を学び始めた会社員。
NISAなどはすでに始めているが、暗号資産は未購入・未経験。分からないことをそのまま質問できる一方、大きな数字を先に比較してしまう癖がある。塾長とは初心者向けの勉強会で知り合って数か月になる。
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画面を押すと閉じます第18話で、選ぶ前に確かめることをメモに書き出し、「このメモを母にどう渡せばいいんだろう」と迷ったミサキが、翌日の土曜、いつもの勉強会の会場で、塾長と初めて会った日を思い出す場面です。
「今日は、何も買わずに帰ってください」。あの日、ほかの人と違うことを言ったのは、塾長だけでした。

晩秋の土曜の午後。勉強会の会場の貸し会議室に、ミサキはいつもより早く着いた。
まだ誰もいない。並んだ椅子の、後ろの列の端に座る。初めて来た日も、この席だった。
膝の上で、昨日のメモ帳を開く。「0.大きい数字から比べない」。その下に、1から3。
前のスクリーンは、まだ何も映していない。ミサキはそれを見上げているうちに、数か月前のあの日のことを思い出していた。
あの日、ミサキは、暗号資産を買うかどうかを何も分からないまま決めるのはいやで、せめて分かってからにしようと、初心者向けの勉強会に申し込んだ。
登壇者は何人かいた。グラフが右肩上がりの画面が続き、何人もが同じことを言った。「今買わないと遅いです」。
メモを取る手が、だんだん速くなった。帰りに口座だけでも作ろうか、と思いかけていた。
最後に出てきたのが、丸いお腹の、眠そうな目をした人だった。その人は、スクリーンに何も映さないまま話し始めた。
塾長最初に、一つだけお願いがあります。
今日は、何も買わずに帰ってください
会場が、少しざわついた。ミサキは、速くなっていたペンを止めた。
終わってから、ミサキは片づけをしているその人のところへ行った。何を聞けばいいのかも分からないまま、口から出たのは一言だった。
ミサキあの……結局、買ったほうがいいんですか。
やめたほうがいいんですか
その人は、少し考えてから、答えの代わりに聞き返した。
塾長それは、私には決められません。
あなたは、何が分かれば決められますか
ミサキは、答えられなかった。買えとも、やめろとも言わない人だった。
帰りの電車でも、聞かれたことが頭から離れなかった。何が分かれば、私は決められるんだろう。
ドアの開く音がして、ミサキは今の会議室に戻った。会場の人が、椅子の数を数えている。
膝の上のメモ帳に目を落とす。昨日のページ。「0.大きい数字から比べない」「1.手数料」「2.中身」「3.自分の言葉で説明できるか」。
ミサキあの日の「何が分かれば決められるか」。
その答えを、私、ここに書いてたんだ
昨日は、このメモを母にどう渡せばいいか分からなかった。母が銀行ですすめられて買った、毎月分配の投資信託のことだ。「お母さん、これを見て選び直して」。そう言うつもりでいた。
でも、あの日の塾長は、ミサキに答えを渡さなかった。この数か月も、答えを言う代わりに、ミサキが持ってきた画面や書類を、横で一緒に見てくれた。
ミサキ答えを渡すんじゃなくて、
一緒に見ればいいんだ
ミサキはスマートフォンを出して、母にメッセージを打った。少し迷って、一度消して、打ち直す。
ミサキお母さん、今度帰ったら、分配金のお知らせ、もう一度一緒に見よう。
私も、自分のを見直してるところだから
返事は、思ったより早かった。
母あら、先生みたいなこと言うのね。
いいわよ。
お茶菓子、用意しとく
ミサキは、小さく笑った。会場に、少しずつ人が入ってくる。
スマートフォンをしまう前に、カレンダーの通知が目に入った。「年末の旅行、予約」。去年と同じ宿にするつもりで、まだ何も確かめていなかった。
目次
すすめられたときに確かめる順番(ここまでのおさらい)
・投資の商品をすすめられたときに、確かめる順番
・それぞれを、何で確かめればいいか
・どの話で学んだか
ミサキが勉強会の日に聞かれた「何が分かれば決められるか」は、商品をすすめられたときにも使える。ミサキのメモの「1.手数料」は下の③、「2.中身」と「3.自分の言葉で説明できるか」は②に当たり、「0.大きい数字から比べない」は最後に書く。ここでは、これに第12話から第18話までにミサキが確かめた①④⑤を足して、確かめる順番に並べ直す。この記事は、特定の商品や金融機関をすすめるものではない。
①それは預金か、投資の商品か
銀行の窓口で扱っていても、投資信託は預金とはちがう商品だ。全国銀行協会は、投資信託は元本が保証されておらず、預金保険の対象外だと説明している(第16話)。最初にここを分けておくと、その後に見る数字の意味が変わる。
②中身は何か
投資信託が何に投資しているかは、商品の説明書である交付目論見書の「ファンドの目的・特色」で確かめられる(第13話)。人に説明できるくらい、自分の言葉で言い換えられるかも、ここで試す。
③費用はいくらか
金融庁の資料は、投資信託の主な費用を、買うときの「購入時手数料」、持っている間にかかる「信託報酬」、売るときの「信託財産留保額」の3つに分けている(第14話・第18話)。持っている間ずっとかかる費用まで、合わせて見る。
④受け取るお金は、どこから出ているか
毎月の分配金は、増えた分から出ているとは限らない。資産運用業協会の用語集は、分配金のうち元本の一部を払い戻したものを「元本払戻金(特別分配金)」と説明している(第15話)。
⑤すすめる言葉に、強い言い切りがないか
金融庁は、「元本も保証します!」のような勧誘に注意するよう呼びかけている(第16話)。ミサキがあの日の勉強会で何度も聞いた「今買わないと遅いです」も、急いで決めさせる言葉だ。言い切りが強いほど、①から④を確かめる前に決めさせようとしていないかを疑う。
この順番の前に、ミサキがメモのいちばん上に書いた「大きい数字から比べない」を置いておきたい。利回りや人気、枠の上限のような目立つ数字を先に見ると、①から④を確かめる前に気持ちが決まってしまいやすい(第17話)。
そして、この順番は、人に答えを渡すためのものではない。ミサキが母に「一緒に見よう」と送ったように、家族の書類を見るときも、一つずつ一緒に確かめていけばいい。
ミサキ、旅行の見積もりに驚く
次は、旅行会社の店頭にて。去年と同じ旅のはずなのに、見積もりの金額を見たミサキは目を疑います。
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