
「もしものとき、持っている暗号資産(仮想通貨)はどうなるのか」。そう考えて検索した人の多くは、相続税のことを思い浮かべているかもしれません。
税金の話は3章で、当校が原文で確かめられた範囲だけを書きます。その前に、家族がもっと手前でつまずきやすい所があります。
まず、題名の問いについて。裁判所の説明では、単純承認は、亡くなった人の土地の所有権などの権利や、借金などの義務をすべて受け継ぐ選び方です。取引所の側でも、たとえばbitFlyer(ビットフライヤー)のFAQには「相続」という分類があり、法定相続人が手続きをする案内が載っています。取引所の口座は、相続の手続きで扱われるものです。
そのうえで、この記事の答えを1つだけ書きます。
取引所の口座やスマートフォンの中の資産は、家族が「どこの会社か」を知らないと見つけにくくなります。国民生活センターは、ネット上の資産は本人以外が把握しにくく、相続の手続きに時間がかかることがある、としています。当校は、相続放棄の「3か月以内」の判断や取引所への手続きも、そこで止まりやすくなると考えます。元気なうちに、使っているサービスの名前と、登録したIDなどを整理して、家族に伝わる形にしておいてください。
裁判所、国民生活センター、取引所の公式の案内、政府の答弁書を、原文で確かめながら進めます。どれも記事の最後にリンクを置いています。
※ 情報提供のみを目的としています。特定の暗号資産の売買や、特定のサービス・相談先の利用は勧めません。税額の計算や節税の方法も扱いません。確かめられなかったことは、記事の後半にまとめています。
目次
塾長とミサキ
十月下旬の夜。ミサキは思い立って、机の引き出しを片づけ始めた。銀行の通帳も、NISAの口座がある銀行から届いた封筒も、ちゃんと引き出しの中にある。暗号資産の取引所の口座のものだけが、一枚も出てこなかった。
ミサキは手を止めて、塾長にメッセージを送った。
ミサキ
ミサキ
塾長
ミサキ
塾長少し間があって、返事が来た。
ミサキ
ミサキ
塾長1. 家族が困る3つの場面
① 見つからない・開けない
国民生活センターは2024年11月20日、「デジタル終活」についての注意を公表しました。「デジタル遺品」に明確な定義はないとしたうえで、故人がネット上に保有していた資産のデータなども含めてそう呼ばれている、と説明しています。寄せられた相談の例には、次のようなものがあります。
故人が利用していたネット銀行の手続きをしたくてもスマホが開けず、ネット銀行の契約先がわからない。
ほかに、コード決済サービスの相続手続きが1か月以上たっても終わらない、という相談も紹介されています。
国民生活センターは、相談事例から見える特徴を3つ挙げています。そのうち、資産に関わるのは次の2つです(残る1つは、サブスクの請求が続くことについてです)。
故人のスマホやパソコン等のパスワードがわからない場合、第三者がロック解除することは困難。
ネット上の資産は本人以外が実態を把握することが難しく、相続手続きに時間がかかることがある。
例はネット銀行やコード決済ですが、当校の見方では、ネットで契約してスマートフォンで見る、という形は暗号資産の取引所の口座も同じです。
紙の書類なら、引き出しを開ければ見つかることがあります。スマートフォンの中だけにある口座は、そもそも「ある」と気づいてもらえないかもしれません。
② 「3か月以内」の期限
裁判所のページによると、相続が始まったとき、相続人は次の3つから選べます。
| 選び方 | 裁判所の説明 |
|---|---|
| 単純承認 | 亡くなった人の土地の所有権などの権利や、借金などの義務をすべて受け継ぐ |
| 相続放棄 | 亡くなった人の権利や義務を一切受け継がない |
| 限定承認 | 債務(借金など)がどの程度あるか分からず、財産が残る可能性もある場合などに、相続で得た財産の限度で債務の負担を受け継ぐ |
相続放棄と限定承認は、家庭裁判所に申し出る(申述する)必要があります。相続放棄の申述には、期限があります。
申述は,民法により自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内にしなければならないと定められています。
3か月以内に財産の状況を調べても、承認するか放棄するかを決める材料が得られない場合は、家庭裁判所に申し立てて、この期間を延ばしてもらえることがある、とも書かれています。
当校の見方を書きます。受け継ぐか放棄するかを決めるには、何がどれだけ残っているかを知る必要があります。暗号資産の口座があることを家族が知らなければ、それを入れずに考えることになります。口座があると分かっても、どこの会社かが分からなければ、中身を確かめに行けません。
③ 取引所への手続き
3つ目は、口座のある会社が分かったあとの場面です。家族は、その会社に連絡して手続きを始めることになります。ここで家族が知りたいのは、「どこに、どうやって連絡すればよいか」です。会社によって手順が違う可能性があるので、1社の例で確かめます。
2. 予想してください:電話で聞けば、口座があるか教えてくれる?
家族が取引所に電話して「亡くなった父(母)の口座はありますか」と聞けば、口座があるかどうかを教えてくれるでしょうか。
① 本人が亡くなったことを伝えれば、電話で教えてくれる
② 電話では教えてくれない
決めてから、先へ進んでください。
暗号資産の取引所bitFlyerのFAQの「相続」の分類に、「被相続人の口座の有無や残高などを教えてもらえますか?」という項目があります。被相続人は、亡くなった人のことです。答えは、こう始まります。
電話によるご照会は受け付けておりません。
法定相続人様から以下のお問合せフォームより連絡をくださり、必要書類をご提出くださいますようお願いいたします。
答えは②です。手続きは、法定相続人がお問い合わせフォームから連絡し、必要書類を出すところから始まります。出した書類を会社が確かめてから手続きに入る、とも書かれています。
冒頭のミサキは「取引所から家族に連絡が行く」と思っていました。このFAQは、家族の側から会社に連絡する形で書かれていて、会社から家族に知らせるという案内は、このFAQにはありません。
フォームに書く項目も、FAQに並んでいます。亡くなった人については、次のとおりです。
| 項目 | 必須か |
|---|---|
| 氏名 | 必須 |
| 生年月日 | 必須 |
| 住所 | 必須 |
| 登録メールアドレス | わかる場合 |
| 死亡日 | 必須 |
このほか、代表相続人の氏名・住所・亡くなった人との関係や、遺産分割協議書・遺言書の有無なども書く欄があります。
ここで分かることがあります。この会社のフォームでは、IDやパスワードが分からなくても、問い合わせの入口はあります。 登録メールアドレスは「わかる場合」です。ただし、その入口を使えるのは、家族が「この会社に口座があるかもしれない」と思いついたときだけです。どこの会社か分からなければ、どのフォームを開けばよいのかも決まりません。
なお、これはbitFlyer1社のFAQです。当校は、他の取引所の相続の手続きの公式の案内を今回確かめられていません。会社ごとに手順が違う可能性があります。また、この会社を勧めるものではありません。
3. 税金について、今回言えること
「暗号資産を相続したら、相続税ではどう扱われるのか」。これを確かめるのに当校が読みたかったのは、国税庁の「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」です。ところが、この記事を書いた2026年10月22日には国税庁のサイトが表示できず、原文を確かめられませんでした。
そのため、相続した暗号資産を相続税でどう評価するか、相続税の基礎控除がいくらかは、この記事では書きません。 国税庁のサイトで、FAQの原文を確かめてください。
先に、家族にとって大事な指摘を1つ紹介します。一次情報ではありませんが、税理士が監修した解説記事(税理士ドットコム、2018年)は、持ち主が急に亡くなった場合に、パスワードなどが分からずに相続人が仮想通貨を取得できなかったり、いくら残っているのか分からないまま相続税だけが課されてしまったりする懸念がある、と書いています。当校は、この点を国税庁などの一次情報で確かめていません。ただ、1章で見た「見つからない・開けない」が、税金の場面でも問題になりうる、という指摘として紹介します。
そのほかに、政府が国会議員の質問に答えた文書(答弁書)で確かめられたことが2つあります。どちらも相続税法に関わる答えですが、①は「贈与」についての答えです。
① 贈与で受け取った暗号資産の評価
2022年4月28日の答弁書は、相続税法の上で、贈与で受け取った暗号資産の価額について、こう答えています。
贈与により取得した暗号資産の価額は時価であるところ、その時価は、外国通貨の評価方法に準じて、その贈与により取得した暗号資産に係る暗号資産交換業者が公表するその贈与の時における取引価格によって評価することとなる。
これは「贈与」についての答えで、「相続」で受け取った場合の答えではありません。相続のときの評価は、上の国税庁のFAQで確かめる必要があります。
② 暗号資産は、相続税の物納に使えない
「物納」は、相続税を金銭で納めるのが難しいときに、税務署長の許可を得て、不動産や有価証券など法律に挙げられた財産で納める仕組みです。2019年11月26日の答弁書は、国税は金銭で納めるのが原則だとしたうえで、資金決済法の暗号資産(答弁書が出た当時の法律の呼び方では「仮想通貨」)について、こう答えています。
相続税法第四十一条第二項に規定する物納に充てることができる財産に該当しないため、物納することはできない。
この答弁書の時点では、暗号資産そのものを相続税の物納に充てることはできない、とされています。その後に扱いが変わっていないかは、今回確かめていません。
4. 元気なうちに、家族に伝わる形にしておく
国民生活センターは、デジタル遺品で家族が困らないための事前の対策として、次の4つを挙げています。
万が一の際に遺族がスマホやパソコンのロック解除ができるようにしておきましょう。
ネット上の資産やサブスクの契約は、サービス名・ID・パスワードを整理しておきましょう。
エンディングノートの活用も検討しましょう。
自分自身に何かあったときに備えて、スマホ等のアカウントにアクセスできる人を指名できるサービスを活用しましょう。
暗号資産について、まず書き出しておくものを、この記事で確かめた資料から並べます。
- 使っているサービスの名前:取引所やウォレットのアプリなど。2章のとおり、家族が問い合わせ先を決めるのに要ります。
- 登録したメールアドレスやID:bitFlyerのフォームには、登録メールアドレスを「わかる場合」に書く欄がありました。
- スマートフォンのロックをどう解除できるようにするか:国民生活センターは、第三者がロックを解除するのは難しいとしています。
ここからは当校の考えです。パスワードまで書き出したメモは、それ自体が口座の鍵と同じ重みを持ちます。誰が、いつ見られるようにするのかを決めてから、置き場所を選んでください。書いたら、そのメモがどこにあるかを、家族の誰かに伝えておくところまでが「伝わる形」です。メモがあっても、ありかを誰も知らなければ、家族にとっては無いのと同じです。
5. この記事で言えないこと
- 相続で受け取った暗号資産が相続税でどう扱われ、どう評価されるか。 国税庁のFAQの原文を、サイトが表示できず確かめられませんでした。相続税の基礎控除の数字も同じです。
- bitFlyer以外の取引所の相続の手続き。 公式の案内を確かめていません。
- 取引所に預けず、自分で管理するウォレットに置いている場合に、家族がどうすればよいか。 今回の資料では確かめていません。
- 相続するか放棄するかの判断や、税額の計算。 この記事は扱いません。
- 持っている暗号資産をどう扱うか、どこに置くか。 この記事は扱いません。
塾長とミサキ(続き)
しばらくして、ミサキは勉強用のノートの新しいページに、会社の名前を二つ書いた。NISAの口座がある銀行と、取引所。
ミサキ
塾長
ミサキ
塾長今日できること
スマートフォンのホーム画面を見て、お金に関わるアプリの名前を書き出してください。 銀行、証券、取引所、ウォレット、コード決済などです。1章のとおり、コード決済の相続手続きで困った相談もあります。
書いたら、その紙がどこにあるかを、家族の誰か1人に伝えてください。 パスワードを書くかどうかは、4章のとおり、置き場所と一緒に決めます。
次に読む
「取引所に置いておく」と「自分で管理する」で何が違うのかは、連載の第8話で、ミサキと一緒に確かめています。
この記事の一次情報と確認日
下の資料は、本文を取得して保存した写しと引用を照合しています(確認日:2026年10月22日)。
一次情報
- 裁判所「相続の放棄の申述」:単純承認・相続放棄・限定承認の3つの選び方、相続放棄と限定承認は家庭裁判所への申述が必要なこと、相続放棄の申述は相続の開始を知ったときから3か月以内であること、判断する資料が得られない場合の期間の伸長の申立て。
- 国民生活センター「今から考えておきたい『デジタル終活』-スマホの中の“見えない契約”で遺された家族が困らないために-」(2024年11月20日公表):デジタル遺品の説明、ネット銀行・コード決済サービスの相談事例、相談事例から見える特徴3つのうち、パスワードが分からないと第三者のロック解除は困難なこと、ネット上の資産は本人以外が把握しにくく相続手続きに時間がかかることがあること、事前の対策4つ。
- bitFlyer FAQ「被相続人の口座の有無や残高などを教えてもらえますか?」:FAQに「相続」の分類があること、電話による照会は受け付けないこと、法定相続人がお問い合わせフォームから連絡し必要書類を出すこと、書類の確認後に手続きに入ること、フォームに書く項目。
- 参議院「暗号資産モナコインの譲渡等に係る税務上の取扱いに関する再質問に対する答弁書」(内閣参質二〇八第三九号、2022年4月28日):相続税法の上で、贈与で取得した暗号資産は、暗号資産交換業者が公表する贈与の時の取引価格で評価すること。
- 参議院「暗号資産による納税に関する質問に対する答弁書」(内閣参質二〇〇第六一号、2019年11月26日):国税は金銭で納めるのが原則であること、相続税の物納の仕組み、資金決済法の暗号資産は物納に充てられないこと。
二次情報(解説記事)
- 税理士ドットコム「仮想通貨『億り人』急死で遺族にふりかかる『相続の難題』 生前対策も重要に」:パスワードなどが分からずに相続人が取得できなかったり、残高が分からないまま相続税だけが課されたりする懸念があること。
この記事が確認していないこと
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」の相続・贈与の項の原文(2026年10月22日、国税庁のサイトが表示できなかった)
- 相続税の基礎控除の数字
- bitFlyer以外の取引所の相続の手続きの公式の案内
- 自分で管理するウォレットに置いている暗号資産の相続の扱い
この記事は情報提供のみを目的としており、特定の暗号資産の売買や、特定のサービス・相談先の利用を勧めるものではありません。
連載「ミサキの0からクリプト」
暗号資産をまだ買ったことのない会社員のミサキが、塾長に質問しながら一つずつ確かめていく連載です。第0話から読む →








