
2026年10月1日、新しいETHの発行を減らす提案「EIP-8363」が、大型アップデート「ヘゴタ(Hegotá)」の採用候補から取り下げられました。EIPは「イーサリアムの改善提案」のことで、イーサリアムをどう変えたいかを書いて公開し、採用するかどうかを議論にかける文書です。ヘゴタは、次の大型アップデートのあとに予定されているものとして議論されています。
当校の今週の週間まとめでも、ETHの項目の3つめでこの出来事を取り上げました。
「候補から外れた」と聞くと、中身がダメだと決まった話に見えます。この記事は、ダメだったのかどうかを決めにいきません。渡すものは1つだけです。
「候補から外れた」を見たら、外れた場所と、理由の欄に書いてあること——中身の良し悪しの判断か、扱う場所の話か——を分けて読む。
今回は、分けるための材料を読者も自分で開けます。10月1日に取り下げたのは提案者自身ですが、その前の9月7日に、イーサリアム財団のプロトコル部門が、ヘゴタに提案された62件を1件ずつ評価した文書を公開しています。EIP-8363はそこで「見送り」に分類されていて、見送った1件ごとに、理由を書く欄が付いています。 今日は、その欄を一度開いてみます。
※ この記事は、ETHを買うべきか・買わないべきかの話ではありません。公開された文書の読み方の話で、価格の見通しも示しません。取り下げの事実はThe Blockの報道によるもので、提案者本人の投稿の原文は当校では確認できていません(記事の最後にまとめています)。日付は、断りのない限り米国時間で書きます。
目次
塾長とミサキ
当校の学習スペース。十月の夕方。ミサキが、スマートフォンの画面を下まで送って、指を止めた。
ミサキ
塾長
ミサキ
塾長
ミサキ
塾長
ミサキ
塾長1. 「外れた」は、日付の違う2つの出来事です
| いつ | 誰が | 何を |
|---|---|---|
| 2026年9月7日 | イーサリアム財団のプロトコル部門(研究と開発にまたがる約60人の集まり) | ヘゴタに提案された62件を1件ずつ評価した文書を公開し、EIP-8363を「見送り」に分類した |
| 2026年10月1日 | 共同提案者ら(表明したのは、その一人のジェローム・ドゥ・ティシェイ氏/Ethereum France代表) | ヘゴタの採用候補から、EIP-8363を自分たちで取り下げた |
この2つは別の行為です。 前の1つは、財団のプロトコル部門が自分たちの評価を述べたものです。文書の題は「EF Protocol: The Hegotá EIP Opinion Post and Tier List」(EF ProtocolによるヘゴタのEIPへの意見表明と区分一覧)で、採用の最終決定を告げるものではありません。文書自身も、区分に異議があれば聞かせてほしい、と書いています。あとの1つは、提案した側が自分で候補から降りた行為です。
では、9月7日の評価があったうえで、10月1日の取り下げは何を変えたのか。文書が出たあとも、どの提案をヘゴタに入れるかを決める工程は続いていて、EIP-8363はまだその中にありました。動いたのは提案の評価ではなく、その検討の場に提案を残すかどうかの判断です。The Blockは、ドゥ・ティシェイ氏が、その工程の中で複数の業界関係者やコアの開発者から受けた指摘に同意して取り下げを決めた、と報じています。どんな指摘だったのかは、第3章で、財団の文書に並んでいる言葉と一緒に見ます。同記事は、提案者らが提案の動機そのものは維持すると述べたとも伝えています。
2. 提案そのものについて、分かっていること
提案の中身は、この記事では一文で足ります。ステーキングに預けられるETHが増えるほど、新しく出るETHを多く減らす案です。ステーキングは、ETHを預けてネットワークの運営に参加し、報酬を受け取る仕組みで、提案は、その報酬の一部を消すという形をとります。細かい設計は、この記事では扱いません。
公式のEIPのページ上の状態(Status)は「Draft(草案)」、作成日は2026年7月14日です。今回取り下げられたのは、ヘゴタという特定のアップデートの採用候補からで、提案そのものが取り消されて消えたわけではありません。
前提を1つだけ置きます。新しく出るETHの量は、あらかじめ決まった固定の数ではありません。イーサリアム公式サイトは、こう書いています。
As discussed above, the amount of ETH issued in a given day is dependent upon the total ETH staked.
上で述べたとおり、ある1日に発行されるETHの量は、預けられているETHの総量によって決まる。(当校による訳)
預けられる量が増えれば、発行される量も増えます。提案の文書も、いまの仕組みでは、預けられるETHが増えるほど発行される量が増える、と書いています。だから、「預けられる量が増えたときに発行をどうするか」が提案になります。
3. 理由の欄を開く
財団プロトコル部門の文書は、62件を「必ず入れる」から「見送り」までの区分に分けています。文書自身の数え上げでは、必ず入れるものが2件、入る見込みのものが15件、理由を書いて見送ったものが28件です。残りは、条件が整えば1件ずつ検討が続くもの、採用の線を下回ったけれども失格ではないもの、本番のネットワークの様子を見てから決めるものです。
つまり、「候補から外れた」にも段があります。EIP-8363が入ったのは、「見送り(DFI=Declined for inclusion、採用しない)」です。そして、この28件には、1件ごとに理由の欄が付いています。
読み進める前に、1つだけ予想してください。次の3つは、その欄に書かれた文の訳です。
3つは、どれも同じ「見送り」です。このうち1つだけ、提案の中身の良し悪しを判断していません。どれでしょうか。
① すでに動いている契約の前提を壊すのに、安全面で得るものがない
② 主に大規模なステーキング事業者に役立つ運用上の便利さで、必要性の基準を満たさない
③ 発行の方針は、フォークの範囲を決める作業よりも広い、エコシステムの手続きに属する
(3つとも、欄の一文目だけを訳しています。続きは答え合わせで出します)
決めてから、先へ進んでください。
答えは③で、これが今回のEIP-8363の行です。欄の原文と、その訳はこうです。
| 原文(理由の欄) | 日本語(当校による訳) |
|---|---|
| Issuance policy belongs to a broader ecosystem process than a fork scoping exercise. Unanimous, and not a judgment on the merits; see the closing note. | 発行の方針は、フォークの範囲を決める作業よりも広い、エコシステムの手続きに属する。全員一致。ただし中身の良し悪しの判断ではない。末尾の注記を参照 |
この欄に出てくる「フォークの範囲を決める作業」は、次のアップデート(フォーク)に何を入れるかを決める一連の工程のことです。The Blockは、ヘゴタのこの工程を Consideration for Inclusion(CFI、採用の検討)と呼び、10月1日に提案者側が取り下げたのも、この工程の中で「発行の方針を決着させる場ではない」という同じ趣旨の指摘を受けたからだと、ドゥ・ティシェイ氏の説明として報じています。9月7日の欄と、10月1日の取り下げは、同じ言い方でつながっています。
①と②の続きは、どちらも「全員一致」の一語だけです。そのどちらも、提案の中身を否定しています(①はEIP-7645、②はEIP-8148の行です)。③だけが、中身ではなく扱う場所の話として外れています。同じ欄の中に、この2種類が並んでいます。「外れた」の一言だけでは、分けられません。
③の欄が指している「末尾の注記」は、文書の最後にあります。
One proposal deserves a direct note: EIP-8363 (Tapered Issuance Burn). The unanimous DFI is not a judgement on the merits of the proposal. Issuance policy touches every staker, every holder, and the network’s long-run security budget; at this stage, EF Protocol does not consider itself the right and sole body to give direction on it, and a fork scoping exercise is not the right venue to settle it.
1件だけ、直接の注記に値する提案がある。EIP-8363(Tapered Issuance Burn)だ。全員一致の見送りは、提案の中身の良し悪しの判断ではない。発行の方針は、すべてのステーカー(預けている人)、すべての保有者、そしてネットワークの長期的な安全のための予算に関わる。現段階で、EF Protocolは、自分たちがその方向性を示す唯一の正しい主体だとは考えていないし、フォークの範囲を決める作業は、それを決着させる場ではない。(当校による訳)
ここで注意したいのは、「場所の話」は「小さい話」という意味ではないことです。注記は、逆のことを言っています。発行の方針は、預けている人にも、預けていない保有者にも、ネットワークの長期的な安全のための予算にも関わります。関わる範囲が広いから、アップデートに何を入れるかを決める作業の中では決めきれない——という理由です。
同じ理由で外れた提案は、もう1件あります。ブロックを作る側の報酬に関わる別の提案(EIP-8375)の欄にも、「報酬の方針は、フォークの範囲を決める作業よりも広い、エコシステムの手続きに属する。全員一致。EIP-8363と末尾の注記を参照」と書かれています。今回の1件だけに向けられた理由ではありません。
なお、欄に出てくる「全員一致」は、その提案に点をつけた人の中での全員一致です。文書は、1件ごとに、付いた点の平均と、点をつけた人数を並べて載せ、人数も一緒に読むようにと書いています(棄権は、提案に不利には数えないとしています)。
欄の書き方は、1件ごとに違います。理由が「-」の1文字だけの行もあります。だから、欄を見ないまま仕分けられる作業ではありません。「外れた」で止めずに、欄まで行く作業です。
逆の読み落としも1つ。「中身の判断ではない」と書かれていることは、提案が将来通ることが決まったという意味ではありません。
4. この記事で言えないこと
分けた結果として、言えないことのほうも決まります。
この先あらためて採用されるかどうかは分かりません。 公式のEIPのページ上の状態は「Draft(草案)」のままです。
発行の方針を話し合う「別の手続き」の形は、一次情報で確認できていません。 財団の文書は、一つの組織だけで決めないエコシステムの手続き(multi-node ecosystem process)で引き継がれることを期待し、自分たちもそこに参加するつもりだと書くだけで、名称・主催・日程を示していません。The Blockは、11月以降に複数の会合を重ねる予定表が示されたと報じていますが、当校は一次情報で確かめていません。
この出来事とETHの値動きの関係は決めません。 価格はいくつもの要因で同時に動きます。この先の価格も予測しません。
塾長とミサキ(続き)
しばらくして、ミサキがスマートフォンを置いた。
ミサキ
塾長
ミサキ
塾長
ミサキ
塾長今日できること
「候補から外れた」を見たら、2つに分けてください。
① 外れた場所:誰が、どの作業の中で外したのか
② 理由の欄:そこに何と書いてあるのか
今回なら、①は2つあります。9月7日に、イーサリアム財団のプロトコル部門が、ヘゴタのEIPを評価する作業の中で「見送り」にした。10月1日に、提案者自身が、ヘゴタの採用候補から取り下げた。②は「発行の方針は、フォークの範囲を決める作業より広い手続きに属する。中身の良し悪しの判断ではない」です。
欄が英語でも、通して読む必要はありません。探すのは2か所だけです。その提案の行と、文書の末尾の注記。
この記事の一次情報と確認日
下の資料は、2026年10月5日に本文を取得して保存し、引用はその保存版と照合しています。
一次情報
- Ethereum Foundation 公式ブログ「EF Protocol: The Hegotá EIP Opinion Post and Tier List」(2026年9月7日):62件を評価したこと、見送りが28件であること、区分の意味、EIP-8363・7645・8148・8375の理由の欄、末尾の注記、点をつけた人数の読み方。英語のため、本文中の訳は当校によるものです。
- EIP-8363: Tapered Issuance Burn(Ethereum Improvement Proposals 公式):提案の中身(預けられるETHが増えるほど、新しく出るETHを多く減らす形であること)、いまの仕組みでは預けられる量が増えるほど発行が増えること、状態(Draft)、作成日。
- ethereum.org「How The Merge impacted ETH supply」:1日に発行されるETHの量が、預けられているETHの総量によって決まること。
二次情報
- The Block「Ethereum staking reward burn proposal EIP-8363 pulled from Hegota upgrade」(2026年10月1日、Zack Abrams):取り下げの事実、ドゥ・ティシェイ氏の説明、採用を検討する工程(CFI)の呼び名、別の手続きの予定表、ヘゴタが次の大型アップデート(グラムステルダム)のあとに来ること。
この記事が確認していないこと
- 取り下げを表明した投稿の原文(X上の投稿で、当校の環境からは取得できませんでした。取り下げの事実はThe Blockの報道によります)
- いまステーキングに預けられているETHの量・その比率・利回りの公式な最新の値
- 発行の方針を話し合う「別の手続き」の名称・主催・日程と、ヘゴタが本番のネットワークに入る日
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この記事は情報提供のみを目的としており、特定の暗号資産の売買を勧めるものではありません。価格の見通しは示していません。








