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「暗号資産なのに、値段が1円のまま」「1ドルのまま」。そういうものがあると知ると、値動きの激しいビットコインより安全な入口に見えます。こうした、法定通貨などの決まった価値に連動するように作られたものを、ステーブルコインと呼びます。

この記事は、どれが安全かを決めにいきません。渡すものは1つだけです。

「1円と連動」「1ドルと連動」を見たら、発行している会社が、①何を裏付けに預けていると書いているか、②誰に対して1:1で戻すと書いているか、を公式ページで確かめる。

値段が動かないのは、ブロックチェーンの性質ではありません。誰かが、同じ価値の物を預けておいて、持ち込まれたら元の通貨で戻すと書いているからです。だから見るところは、約束している人と、預けてある物と、戻してもらえる相手になります。

今回は、それを円とドルの代表的な2つ——日本円のJPYCと、米ドルのUSDC——で並べます。どちらも、発行している会社が自分の公式ページに書いていることなので、読者も同じ行を自分で開けます。

※ この記事は情報提供のみを目的としており、特定の暗号資産・電子決済手段の売買や、特定のサービスへの登録を勧めるものではありません。価格の見通しも示しません。裏付け資産の中身は、発行者自身の説明と、国内の登録業者の公式ページに書かれていることを読んだもので、当校が資産そのものを確かめたわけではありません。確かめられなかったことは、記事の最後にまとめています。

塾長とミサキ

当校の学習スペース。十月半ばの夕方。ミサキが、スマートフォンを塾長の方へ向けた。

ミサキミサキ
「塾長、これなんですけど。暗号資産なのに、ずっと1円のままっていうのがあるんですね。JPYCっていう、円の。……値動きしないなら、私でも安全に始められるんじゃないですか」
塾長塾長
「値動きしない、は半分当たってる。……その1円、誰が引き取るって書いてあった」
ミサキミサキ
「引き取る、ですか。……すみません、それ、どういう意味ですか」
塾長塾長
「悪い。1円で戻してくれる相手のことだ。1円のままと書いてあるなら、1円で戻す側がどこかにいる」
ミサキミサキ
「……見てないです。『1円のまま』のところで止まって、安全そう、で終わってました。なんで1円のままなのかは、考えてもなかったです」
塾長塾長
「安全そう、は俺もよく使った。利回りの数字を見て、安全そうだと思って、その金がどこへ行くのかを後で確かめた。順番が逆だった」
ミサキミサキ
「……先に見るのは、どこですか」
塾長塾長
「2つだ。何を預けてあるか。誰に戻せるか。どっちも、発行してる会社のページに1行ずつ書いてある。……先に、そこだけ探してみてくれ」

1. ステーブルコインは、「何に連動させるか」が先に決まっています

ステーブルコインという呼び方は、日本の規制当局も使っています。金融庁は、国内の制度を説明するページで、「電子決済手段等取引業・電子決済等取扱業」に注を付け、こう書いています。

法定通貨の価値と連動するいわゆるステーブルコインの仲介等を業として行うこと。

ポイントは「価値と連動する」の部分です。ビットコインのように値段が市場の売買だけで決まるものとは、作り方が違います。何に連動させるかが先に決まっていて、その連動を保つための仕掛けが別に用意されています。

そして、連動を保つ方法は1つではありません。法定通貨を同額預けておく型、別の暗号資産を担保に入れる型、担保を置かずに発行枚数の調整で価格を保とうとする型がある、と説明されています(この分類の出典は国内の登録業者のコラム記事で、一次情報ではありません)。つまり「連動する」と書いてあること自体は、裏付けの物があることを意味しません。 だから、何を預けてあるのかを見ます。

この記事で扱うJPYCとUSDCは、どちらも裏付けの物を預けておく型です(JPYCは日本円の預貯金と国債、USDCは現金とそれに近い資産。中身は3章の表で並べます)。

2. 日本では、暗号資産と「電子決済手段」で制度が分かれています

ここが、初めて調べるときにいちばんつまずく所です。日本の制度では、円に連動するステーブルコインは暗号資産の一種ではなく、別の枠に入っています。

金融庁のページによると、2017年4月1日から暗号資産(当時の法令上の呼び方は仮想通貨)と法定通貨の交換サービスに登録が必要になり、それとは別に、2023年6月1日から「電子決済手段等取引業・電子決済等取扱業」の制度が始まりました。

国内で電子決済手段等取引業・電子決済等取扱業を営むには、それぞれ資金決済に関する法律・銀行法に基づく登録が必要となりました。

この「電子決済手段」が、円に連動するステーブルコインの入っている枠です。JPYCを発行するJPYC株式会社も、自社のプレスリリースで、JPYCは「資金決済法第2条第5項に基づく『電子決済手段』」であり、「『暗号資産(仮想通貨)』とは全く異なるもの」だと書いています。発行が始まったのは、同社の発表によると2025年10月27日です。

さらに、誰でも発行できるわけではありません。同じ発行者のプレスリリースに、こうあります。

2023年6月1日、電子決済手段(ステーブルコイン)の発行・流通に関する改正資金決済法が施行され、日本国内においては信託銀行等のほか、資金決済法に基づく登録を受けた資金移動業者のみが、日本円に連動する電子決済手段を発行できることになりました。

一方のUSDCは、米国のCircle社が発行しているもので、日本の法律に基づいて発行されたものではありません。ただし、国内で扱う業者の側には登録が要ります。国内の電子決済手段等取引業者であるSBI VCトレードは、「取扱電子決済手段」のページにUSDCを載せ、「米国のCircle社が発行する、米ドルの価格に連動するステーブルコインです」と説明しています。

なお、制度はまだ動いています。金融庁の同じページには、2026年6月1日から「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」という新しい枠が始まったことも書かれています。この記事に書いた制度の形は、この先の改正で変わり得ます。

3. 見るのは3つ。3つめは、先に予想してください

この記事が渡す確認点は「何を預けてあるか」「誰に戻せるか」の2つですが、その2つを読むには、先に「誰の説明なのか」を押さえる必要があります。だから、確かめる所は全部で3つになります。

①誰が発行しているか、②何を裏付けに預けていると書いているか、③誰に対して1:1で戻すと書いているか。

3つめに入る前に、1つだけ予想してください。

USDCの発行者であるCircleの公式ページには、次のどちらが書いてあるでしょうか。

① 個人でも、Circleに直接USDCを持ち込めば、いつでも1:1で米ドルに戻せる
② Circleに直接戻せる相手は限られていて、個人はその相手に含まれていない

決めてから、先へ進んでください。

答えは②です。Circleの公式ページのよくある質問に、こう書かれています。

Circle Mint enables exchanges, institutional traders, banks, and large financial institutions to directly redeem USDC 1:1 for USD from Circle. Mint is not available to individuals or small businesses.

Circle Mintによって、取引所、機関投資家、銀行、大規模な金融機関は、CircleからUSDCを直接1:1で米ドルに償還できる。Mintは、個人や小規模事業者には提供されていない。(当校による訳)

同じページは、個人や普段の利用者は、取引所・ネット銀行・デジタルウォレットを通じてUSDCを扱えるとしています。日本国内についても、SBI VCトレードのページに書かれています。

Circle社は全てのUSDC保有者/保有希望者と直接取引する訳ではありません。日本においては電子決済手段等取引業者を介してUSDCの発行/償還が行われます。

Circleは、別のページで「USDC is always redeemable 1:1 for US dollars(USDCは常に1:1で米ドルに償還できる。当校による訳)」とも書いています。この2つは矛盾していません。1:1で戻せるという約束と、自分が直接その相手になれるかどうかは、別の話です。

では、円のJPYCはどうでしょうか。3つを並べます。

見るところJPYC(日本円に連動)USDC(米ドルに連動)
①誰が発行しているかJPYC株式会社。2025年8月18日付で資金決済法第37条に基づく「資金移動業者」として登録したと発表(登録番号:関東財務局長第00099号。発行者の発表による記載で、当校は金融庁の一覧では未照合)米国のCircle社。国内の登録業者も「米国のCircle社が発行する、米ドルの価格に連動するステーブルコイン」と説明
②何を裏付けに預けていると書いているか「発行価値の裏付け資産は、日本円(預貯金および国債)によって発行残高の100%以上を保全」(発行者の説明)流動性の高い現金・現金同等物で100%の裏付け。その大半は「Circle Reserve Fund」という米国の規則に沿った政府系のファンド(短期の米国債などで運用する投資信託)で保有し、残りは現金(発行者の説明)
③誰に1:1で戻すと書いているか公式プラットフォーム「JPYC EX」の登録ユーザー。登録には本人確認が必要で、発行者はマイナンバーカードによる公的個人認証(JPKI)に一本化していると説明Circleに直接は、取引所・機関投資家・銀行・大規模な金融機関。個人・小規模事業者は対象外。日本では電子決済手段等取引業者を介して発行/償還

③の行で、2つの答えが違います。 円のJPYCは、発行者のプラットフォームに登録すれば、利用者自身が発行と償還の相手になれると書かれています。ドルのUSDCは、発行者が直接相手にするのは限られた事業者で、個人の場合は間に業者が入ります。どちらが良いという話ではなく、「1:1で戻せる」の意味が同じではない、ということです。

②についても、自分で確かめられる度合いに差があります。Circleは、USDCの準備金の保有状況を毎週開示し、加えて大手の会計事務所(いわゆるBig Four)が月次で、準備金の価値が流通しているUSDCの量を上回っていることについて第三者保証を行っていると書いています(同社のページには、2026年10月12日時点の流通量として「$72.7 B」=727億ドルと印字されています)。JPYCについては、当校が今回確かめた資料の中に、同じような開示の頻度を書いた記載は見つかりませんでした(発行者の公式サイトは、当校の環境から本文を取得できませんでした)。

4. 同じ「円のステーブルコイン」でも、発行者の型が違います

もう1つ、つまずきやすい所です。「円のステーブルコイン」はJPYCだけではありません。そして、発行者の型が違います。

2章で引いたとおり、日本円に連動する電子決済手段を発行できるのは、信託銀行等と、登録を受けた資金移動業者です。JPYCは後者で、発行者自身がこれを「資金移動業型ステーブルコイン」と呼んでいます。

前者の例も、国内の登録業者のページで見られます。SBI VCトレードの「取扱電子決済手段」のページにあるJPYSCは、SBI新生信託銀行が発行する信託型で、同ページは「日本で初(※)となる信託型の日本円建てステーブルコイン」と説明しています。裏付けは、その信託銀行が保有する日本円やその同等資産です。

つまり、「円に連動」という表示が同じでも、預かっているのが誰(どんな登録・免許の会社)なのかが違います。 ①の「誰が発行しているか」を飛ばせない理由が、ここにあります。

名前が似ているだけの別物にも注意が要ります。JPYC株式会社は、今回の「JPYC」とは別に、以前から「JPYC Prepaid」という前払式支払手段のトークンを発行しており、プレスリリースで「JPYC(電子決済手段)とJPYC Prepaid(前払式支払手段)は異なるトークンであり、当社が両トークン同士の交換を受け付けることはありません」と断っています。同じ会社の似た名前でも、入っている制度の枠が違います。

なお、SBI VCトレードの取扱一覧にJPYCはありません。この記事は「国内の取引所でJPYCを売買できる」とは書きません(確かめていないため。記事の最後にまとめています)。

5. 自分で確かめるときに探す行

公式ページを全部読む必要はありません。探すのは次の3か所です。

① 「発行」の語がある行 → 会社の名前と、その会社が何の登録・免許を持っているか
② 「裏付け」「準備金」(英語なら backed、reserve)の語がある行 → 何を、どれだけ預けてあるか
③ 「償還」(英語なら redeem)の語がある行 → 誰が戻せるか。「個人は対象外」のような断りが付いていないか

英語のページでも、通して読む必要はありません。②と③は、たいてい「よくある質問」か「透明性(Transparency)」のページに、1〜2行で書かれています。

日本国内で扱う業者を見るときは、もう1か所あります。金融庁の「暗号資産・電子決済手段関係」のページには、「電子決済手段等取引業者登録一覧」が置かれています(PDFとExcel)。国内で扱っている業者が、そこに載っているかを見られます。

6. この記事で言えないこと

分けた結果として、言えないことのほうも決まります。

どちらが安全か、優劣は決めません。 この記事が示したのは、確かめる所が3つあることと、その答えがJPYCとUSDCで違う所があることだけです。

「100%以上を保全」「100%の裏付け」は、発行者自身の説明です。 当校は、裏付け資産そのものやその残高を直接確かめていません。読者が確かめられるのも、発行者が公開している説明と、第三者の保証報告です。

連動が崩れないという保証ではありません。 国内の登録業者のよくある質問は、本来連動しているはずの基準価値から価格が乖離する現象を「ディペッグ」と呼んでいます。呼び名があるということは、起こり得るものとして扱われているということです。ただし、それがどのくらい起きるのか、この先起きるのかを、この記事では見通しません。

金額や回数の条件は確認できていません。 JPYCの公式サイトは当校の環境から本文を取得できず、発行・償還の1回あたりの上限、最低額、手数料は一次情報で確かめられていません。

税金の取り扱いは扱いません。 国税庁の一次情報で確かめていないため、この記事では触れません。

塾長とミサキ(続き)

しばらくして、ミサキがスマートフォンを置いた。

ミサキミサキ
「……2行、見つけました。さっきの『安全そう』は、言い過ぎでした」
塾長塾長
「何が引っかかった」
ミサキミサキ
「1円で戻してもらえる相手が、ものによって違うんですね。円のほうは、本人確認して登録すれば自分が戻す相手になれるって書いてあって。ドルのほうは、個人は直接の相手じゃないって、わざわざ書いてあって」
塾長塾長
「それ、どこで読んだ」
ミサキミサキ
「よくある質問のところです。英語だったので、スマホで訳しました。……メモにも2行だけ書き足しました。『何を預けてる』『誰に戻せる』。買う話は、まだ書いてません」
塾長塾長
「それで十分だ」
ミサキミサキ
「……1円のまま、が崩れることもあるんですか」
塾長塾長
「それを呼ぶ言葉はあった。どのくらい起きるかは、今日の資料じゃ分からん。次はそこを探そう」

今日できること

「1円と連動」「1ドルと連動」を見たら、発行している会社のページで、2行だけ探してください。

① 何を裏付けに預けていると書いてあるか
② 誰に対して1:1で戻すと書いてあるか

今回なら、①はJPYCが日本円(預貯金および国債)で発行残高の100%以上、USDCが流動性の高い現金・現金同等物で100%(どちらも発行者の説明)。②はJPYCが「JPYC EXに登録した利用者」、USDCが「Circleに直接は取引所や銀行などで、個人は対象外」です。

この2行が見つからないものは、「連動している」と書いてあっても、何を根拠に連動しているのかが分かりません。

この記事の一次情報と確認日

下の資料は、本文を取得して保存した写しと引用を照合しています(確認日:2026年10月15日)。

一次情報

  • 金融庁「暗号資産・電子決済手段関係」:規制当局が「法定通貨の価値と連動するいわゆるステーブルコイン」という言い方を使っていること、2017年4月1日からの暗号資産交換業の登録、2023年6月1日からの電子決済手段等取引業・電子決済等取扱業の登録、2026年6月1日からの電子決済手段・暗号資産サービス仲介業、「電子決済手段等取引業者登録一覧」が置かれていること。
  • JPYC株式会社 プレスリリース「【国内初】日本円建ステーブルコイン発行へ-資金移動業者の登録を取得」(2025年8月18日):資金移動業者の登録と登録番号、円に連動する電子決済手段を発行できるのは信託銀行等と登録を受けた資金移動業者だけであること、JPYCが資金決済法第2条第5項の「電子決済手段」で暗号資産とは異なること、「資金移動業型ステーブルコイン」という自称、JPYCとJPYC Prepaidが別のトークンであること。
  • JPYC株式会社 プレスリリース「【国内初】日本円ステーブルコイン「JPYC」および発行・償還プラットフォーム「JPYC EX」を正式リリース」(2025年10月24日):裏付け資産(日本円の預貯金および国債)と発行残高の100%以上の保全、JPYC EXでの発行・償還の相手と本人確認(JPKI)。
  • Circle「Transparency」:USDCが流動性の高い現金・現金同等物で100%裏付けされ、常に1:1で米ドルに償還できるとされていること、準備金の大半がCircle Reserve Fund(SEC登録の2a-7政府系マネー・マーケット・ファンド)で残りが現金であること、準備金の週次開示と四大会計事務所による月次の第三者保証。英語のため、本文中の訳は当校によるものです。
  • Circle「USDC」:Circle Mintで直接1:1の償還ができる相手(取引所・機関投資家・銀行・大規模な金融機関)と、個人・小規模事業者が対象外であること、個人は取引所・ネット銀行・デジタルウォレット経由で扱えること、2026年10月12日時点の流通量の印字。
  • SBI VCトレード「取扱電子決済手段」:USDCの説明(米国のCircle社が発行し米ドルの価格に連動する)、日本では電子決済手段等取引業者を介してUSDCの発行/償還が行われること、JPYSCがSBI新生信託銀行の発行する信託型であること、取扱一覧にJPYCがないこと。
  • SBI VCトレード「USDC」:USDCが米ドルと1:1で連動するよう設計され準備金が金融機関に保管されているという日本語での説明、裏付資産の運用状況が毎月公開されていること、「ディペッグ」の語の説明。

二次情報

この記事が確認していないこと

  • JPYCの公式サイト(本文が当校の環境から取得できませんでした)に書かれている、発行・償還の1回あたりの上限額、最低利用額、手数料
  • JPYCの現在の発行額・流通量と、対応ブロックチェーンの現在の一覧
  • 金融庁の登録一覧によるJPYC株式会社の登録番号の照合(一覧がPDFのため、本文の照合に使えませんでした)
  • USDCの準備金の内訳(現金と米国債の比率)の最新の値
  • 国内の暗号資産交換業者でJPYCを売買できるかどうか
  • JPYC・USDCを売買・送付したときの日本の税務上の取り扱い(国税庁の一次情報)
  • 日本銀行によるステーブルコインの定義(資料がPDFのため、本文の照合に使えませんでした)

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この記事は情報提供のみを目的としており、特定の暗号資産・電子決済手段の売買や、特定のサービスへの登録を勧めるものではありません。価格の見通しは示していません。

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