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2026年10月5日から9日(米国時間)の1週間で、米国のビットコイン(BTC)現物ETFからは約6.79億ドル、イーサリアム(ETH)現物ETFからは約5.42億ドルのお金が出ていきました。BTCのETFは前の週が約2.41億ドルの流入でしたから、流れの向きが変わった週です。ETHのETFのほうは、9月29日から10月9日まで9営業日続けて流出しました。

当校の今週の週間まとめでも、BTC・ETHの両方の項目で取り上げました(リンクは記事の最後にまとめています)。

「ETFから資金が流出した」と聞くと、みんなが売って逃げている音に聞こえます。この記事は、誰が売ったのかを当てにいきません。渡すものは1つだけです。

「ETFから資金が流出した」を見たら、箱の中身——ファンドが実際に持っているビットコインやイーサ——が減ったかどうかの話として読む。

今回は、確かめるための材料を読者も自分で開けます。ETFの箱は、ビットコインの値段の動きを反映することを目指していて、そのために実際にビットコインを買って持っています。そして、その中身が出ていく道筋は、発行体の公式ページに1段落だけ印刷されています。 今日は、その段落を一度開いてみます。

※ この記事は、ETFを買うべきか・買わないべきかの話ではなく、価格の見通しも示しません。また、日ごとの流出入額は発行体が公表しておらず、ここで使う数字はFarside Investorsの集計です(記事の最後にまとめています)。日付は、断りのない限り米国時間で書きます。

塾長とミサキ

十月半ばの夕方。学習スペースの入口の前で、帰り支度の塾長とすれ違ったミサキが、スマートフォンを持ち上げた。廊下の窓の外は、もう暗い。

ミサキミサキ
「塾長、今週のまとめのETFのところです。1週間で6億7,900万ドル出ていったって書いてあって。……これ、みんな売って逃げてるってことですよね。私、まだ1円も買ってないのに」
塾長塾長
「数字は合ってる。……その金、どこから出ていったと思う」
ミサキミサキ
「どこから、って……ETFから、ですよね。そう書いてありますけど」
塾長塾長
「正確には、口数の設定と償還の差額を金額に直したものだ」
ミサキミサキ
「……塾長。今の、一つも分かりませんでした」
塾長塾長
「悪い。言い方を変える。……ETFって、中に何が入ってる」
ミサキミサキ
「中、ですか。……考えたこと、なかったです。ビットコインの値段に合わせて動く商品、とだけ思ってました。何が入ってるかまでは。……手数料のときも、私、先に数字だけ見ましたね」
塾長塾長
「そこは、俺が説明するより公式のページのほうが早い。箱の中身と、出入りの単位が、数字で書いてある。……英語だが、訳を送る」

1. 1週間で、何が起きていたのか

対象は、米国の証券取引所に上場しているBTC・ETHの「現物ETF」です。ETFは、株と同じように証券口座から売買できる投資信託のことです。「現物」という呼び方が何を指しているかは、第2章で公式ページを開いて確かめます。

BTCの現物ETFは、10月5日から9日の5営業日で合計約6.79億ドルの流出でした。ただし、日ごとに見ると、向きは1つではありません。

米国時間BTC現物ETF全体うち、いちばん規模の大きいIBIT1本
10/5(月)−89.8+69.9
10/6(火)+118.8+122.0
10/7(水)−484.9−207.7
10/8(木)−244.1−5.5
10/9(金)+21.1+22.4
5営業日の合計−678.9+1.1

単位は百万ドル。マイナス(−)が流出です。

全体では約6.79億ドルの流出ですが、いちばん規模の大きい1本(BlackRockのIBIT)は、週を通すとほぼ横ばいの+110万ドルです。流出が大きかったのは10月7日と8日の2日間ですが、この2日も中身が違います。7日はIBITを含む各銘柄に広がり、8日は全体の−244.1に対してIBITが−5.5で、残りは他の銘柄です。「ETFから流出した」の中身は、1日ごと・1銘柄ごとに違いました。

ETHのほうは、5営業日すべてが流出で、合計約5.42億ドルでした。その日ごとの数字は、第5章でBTCと並べます。

2. 箱の中身は、実際にあります

ここで、箱の中身を1回だけ見ます。Bitwiseのビットコイン現物ETF(BITB)の公式ページは、商品の説明をこう書いています。

the fund invests directly in bitcoin and is easily accessible from a brokerage account

このファンドはビットコインに直接投資し、証券口座から手軽に利用できる。(当校による訳)

同じページに、ファンドが持っているものが表で載っています(10月11日時点)。

項目載っている値
持っているものBITCOIN(1種類だけ)
信託が持つビットコイン37,290.75 BTC
1口あたりのビットコイン0.000543 BTC
全体に占める比率100%

値段の動きを反映するために、箱の中には、実際のビットコインが入っています。 だから「お金が出ていった」という話は、たどっていくと、この数量が減ったかどうかの話になります。

では、その数量は、どういうときに減るのでしょうか。先へ進む前に、1つだけ予想してください。

あなたが証券口座で、このETFを1口だけ売りました。ファンドが持っているビットコインは、減るでしょうか。

① 減る
② 減らない

決めてから、次へ進んでください。

3. 答え:出入りには、単位と相手が決まっています

答えは ②「減らない」 です。BlackRockのビットコイン現物ETF(IBIT)の公式ページに、そのまま印刷されています。

Although shares of the Trust may be bought or sold on the secondary market through any brokerage account, shares of the Trust are not redeemable from the Trust except in large, aggregated units called “Baskets”. Only registered broker-dealers that become authorized participants by entering into a contract with the sponsor and the trustee of the Trust may purchase or redeem Baskets.

信託の口数は、どの証券口座を通じてでも流通市場で売買できるが、「バスケット」と呼ばれる大口のまとまった単位でなければ、信託に対して償還することはできない。信託のスポンサーおよび受託者と契約を結んで認定参加者となった、登録済みの証券会社だけが、バスケットを購入または償還できる。(当校による訳)

分けて読むと、別々の2つのことが書いてあります。

  1. 投資家が証券口座で売る場所は流通市場です。売った口数は、買った別の投資家に渡ります。ファンドの中身は動きません。
  2. 口数をファンドに返して中身を受け取ること(償還)には、「バスケット」という大口の単位が必要で、それができるのは、発行体と契約を結んで認定参加者になった証券会社だけです。

つまり、箱の中身が減るのは、1ではなく2が起きたときです。ニュースで見る「ETFから○億ドルの流出」は、2の償還が設定(新しくバスケットを作って中身を増やすこと)を上回った分を、金額に直したものです。Bitwiseの公式ページも、同じことを別の言い方で書いています(「not individually redeemed from the Fund」=ファンドに対して1口ずつ償還されることはない)。

1バスケットは、どれくらいの大きさか

その単位も、公式ページのKey Factsに数字で載っています(IBIT、10月12日時点)。

公式ページの項目載っている値
Basket Bitcoin Amount(1バスケットのビットコイン)22.64 BTC
Basket Amount(1バスケットの金額)$1,868,585.88
Shares Outstanding(発行済口数)1,422,080,000
Net Assets of Fund(純資産)$66,431,964,700

1バスケット=22.64BTC、金額にして約186.9万ドル。 個人が証券口座で売るとき、そもそも売る相手は信託ではありません。加えて、信託に対して償還できる相手も、契約した認定参加者だけと決まっています。箱の中身が動くのは、この2つの条件がそろったときだけです。

4. 「2億ドルの流出」を、何口分かに置き換える

ここまでで、金額を現物の増減として読み直す材料がそろいました。やってみます。

10月7日、IBIT1本から出ていったのは約2.08億ドル(207.7百万ドル)でした。1バスケットが約186.9万ドルなら、何バスケット分でしょうか。

207,700,000 ÷ 1,868,585.88 = 約111

1バスケットの数量をかけると、中身のほうの大きさになります。

111 × 22.64 = 約2,513 BTC

同じ1本の純資産は、664.3億ドルです(10月12日時点)。流出額をこれで割ると、箱全体に対する大きさが出ます。

207.7 ÷ 66,432 = 約0.3%

先に断っておきます。この3つは当校の計算で、公式ページに載っている数字ではありません。 しかも、流出額は10月7日、バスケットと純資産は10月12日の値です。バスケットの数量と金額は日ごとに動くので、出てくるのは「おおよそ何口分か」までです。確定値として読まないでください。

それでも、金額と現物は、これで同じ物差しに並べられます。1日で2億ドルという数字は、箱の中身で言えば約2,500BTC、箱全体の0.3%ほどです。その大小をどう受け取るかは読者が決めることで、ここで言えるのは、金額を箱の大きさで割るとこうなる、ということだけです。少なくとも、この1本については、「箱が空になりかけている」という意味の数字ではありません。

5. 同じ形の箱で、BTCとETHは向きが分かれた

BTC側とETH側は、同じ形の商品です。BlackRockのイーサリアム現物ETF(ETHA)の公式ページは、目的をこう書いています。

The iShares Ethereum Trust ETF seeks to reflect generally the performance of the price of ether, the native token of the Ethereum network.

iShares Ethereum Trust ETFは、イーサリアムネットワークの基軸トークンであるether(イーサ)の価格の動きを、おおむね反映することを目指す。(当校による訳)

バスケットの行も、同じ形で載っています(10月12日時点)。1バスケット=904.95 ETH、金額にして約227.5万ドル。純資産は87.6億ドルです(同じ表の「Indicative」と付いた行は904.94で、0.01だけ違う数字が並んでいます)。

同じ形の箱で、今週の日ごとの数字は、こう分かれました。

米国時間BTC現物ETF全体ETH現物ETF全体
10/5(月)−89.8−50.8
10/6(火)+118.8−201.9
10/7(水)−484.9−160.9
10/8(木)−244.1−72.5
10/9(金)+21.1−56.1
合計−678.9−542.2

単位は百万ドル。BTCは、5営業日のうち2日は流入に戻っています。ETHは5営業日すべてが流出で、しかもこの流出は9月29日から続いていて、保存した集計表で数えると10月9日で9営業日連続です。週ごとの合計で見ると、1月19日の週(約6.01億ドルの流出)に次いで、2026年で2番目に大きい流出週になります。ただし、この順位と1月の数字は、当校が保存した表の範囲(9月24日以降)には入っていません。当校の週間まとめが同じ集計サイトの全期間データから数えたもので、この記事では確かめ直せていません。

ここで、第4章と同じ割り算をETH側でもしてみます(当校の計算であること、時点が違う数字どうしの割り算であることという断り書きも、第4章と同じです)。10月6日のETHの流出(−201.9)は、全額がETHA1本のものでした。

201,900,000 ÷ 2,274,793.12 = 約89(バスケット)
89 × 904.95 = 約8万 ETH
201.9 ÷ 8,756 = 約2.3%

BTC側でいちばん流出が大きかった日が約0.3%、ETH側のこの日が約2.3%です。箱の大きさが違うので、どちらも「1日2億ドルの流出」でも、箱に対する割合には7倍以上の差があります。 金額だけを並べていると、この差は見えません。

保存した集計表は、10月12日の行まであります。ETH側はその日も−10.3で、流出がもう1営業日続いています。BTC側の10月12日は、IBITの欄が「−」(保存した時点で未発表)になっているため、合計の0.0をそのまま読むことはできません。

6. この記事で言えないこと

分けた結果として、言えないことのほうも決まります。

流出と価格の下落の、どちらが先かは言えません。 同じ週に、BTCは約2.6%、ETHは約7.1%下がりました(当校の週間まとめ)。ただし、発行体も公的機関も流出の理由を公表しておらず、前後関係を示す一次情報はありません。

売ったのが誰で、なぜ売ったのかも言えません。 発行体の開示に、買い手・売り手の属性や理由は含まれていません。

日ごとの金額そのものが、発行体の公表値ではありません。 公式ページに載っているのは、その日の純資産・発行済口数・1バスケットあたりの数量までです。日ごとの流入・流出額、9営業日連続という数え方、2026年で2番目に大きい流出週という順位は、いずれもFarside Investorsの集計です。このうち週ごとの順位は、当校が保存した表の範囲(ETH側は9月24日以降)の外にあり、当校の週間まとめの記載によります。

ETFの信託全体が、合計で何BTC・何ETH持っているかも言えません。 銘柄ごとには出ています(BITBは37,290.75BTC)が、iSharesの公式ページには、信託の総保有量の欄がありません。

なお、同じ10月7日には、FRB(米国の中央銀行にあたる組織)が9月の会合の議事要旨を公表しています。そこにはこう書かれています。

With regard to the outlook for monetary policy beyond the current meeting, most participants assessed that another increase in the target range for the federal funds rate would likely be appropriate by year end.

今回の会合より先の金融政策の見通しについて、ほとんどの参加者は、年末までに政策金利の誘導目標をもう一段引き上げることが適切になる可能性が高いと判断した。(当校による訳)

金利が高いまま続くという見方が当時あったことの、一次情報です。ただし、この文書はETFの資金の流れについて何も書いていません。 同じ日に起きた別の出来事として、並べて置くだけにします。

塾長とミサキ(続き)

しばらくして、ミサキが手帳を開いたまま顔を上げた。

ミサキミサキ
「1,422,080,000。……今日の発行済口数、書き写しました」
塾長塾長
「何に使う」
ミサキミサキ
「次に『流出』って見たときです。この行が減ってるかどうかなら、私にも分かるので。……金額だけだと、大きいか小さいかしか分からなかったので」
塾長塾長
「それで十分だ」
ミサキミサキ
「……1つ、分からないままなんですけど。1バスケット22.64BTCって、ずっと同じ数ですか。来週も22.64なんですか」
塾長塾長
「そこは、俺も確かめてない。……来週、同じ行を一緒に見よう」

今日できること

「ETFから資金が流出した」を見たら、発行体の公式ページの2行を見てください。

① Shares Outstanding(発行済口数):箱の口数そのもの。償還が起きれば、ここが減ります
② Basket Bitcoin Amount(1バスケットの数量):出入りの単位。ETHのファンドでは Basket Ether Amount です

公式ページに載っているのは今日の値だけで、日ごとの推移は載っていません。だから、今日の数字を1行だけ書き写しておきます。次に「流出」の見出しを見たときに、自分の1行と比べられます。

探すのは、商品の細かい説明のページではありません。ファンドのページの上のほうにある「Key Facts」の枠です。英語でも、読むのは数字と単位だけです。

この記事の一次情報と確認日

下の資料は、2026年10月13日に本文を取得して保存し、引用はその保存版と照合しています。

一次情報(発行体・公的機関)

二次情報(集計)

  • Farside Investors「Bitcoin ETF Flow – All Data (US$m)」:BTC現物ETFの米国営業日ごとの資金流出入(10/5 −89.8、10/6 +118.8、10/7 −484.9、10/8 −244.1、10/9 +21.1、週合計 −678.9。IBIT列は順に +69.9/+122.0/−207.7/−5.5/+22.4、週合計 +1.1。10/12はIBIT列が「−」)。単位は百万ドル。発行体は日次フローを公表しておらず、この数字は同サイトの集計です。
  • Farside Investors「Ethereum ETF Flow (US$m)」:ETH現物ETFの米国営業日ごとの資金流出入(10/5 −50.8、10/6 −201.9、10/7 −160.9、10/8 −72.5、10/9 −56.1、週合計 −542.2、10/12 −10.3)。9月29日から10月9日までの9営業日連続の流出も、当校が保存した範囲(9/24以降。9/28は+17.1の流入)で数えられます。

当校の記事(数字の出どころ)

  • 同じ週の値動き(BTC約−2.6%、ETH約−7.1%)と、ETHの「2026年で2番目に大きい流出週」という順位・1月19日の週の約6.01億ドルは、当校の今週の週間まとめによります。
  • 前の週(9/28〜10/2)のBTC現物ETFが約2.41億ドルの流入だったことは、上のFarsideの保存した表で数え直せます(31.0+66.2−148.7+102.7+189.9=241.1百万ドル)。

この記事が確認していないこと

  • ETFの信託全体(銘柄をまとめた合計)が保有するBTC・ETHの数量
  • 流出と価格下落の前後関係・因果関係、および投資家が売った動機
  • 日ごとの流出入額そのもの(発行体・公的機関の公表値ではなく、集計サイトの数字です)
  • 認定参加者としてバスケットを設定・償還している証券会社の名前(公式ファンドページには記載がありません)
  • ETHのETFがステーキングで実際に得ている報酬の額

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