
「トークン化預金」。ゆうちょ銀行の検討や、国をまたぐ決済の取り組みを伝えるニュースに、この言葉が出てきます。ステーブルコインと何が違うの? 同じものの別の呼び方? と調べに来た人に向けた記事です。
先に、この記事が渡すことを1つだけ書きます。
どちらも「円やドルと同じ値打ちのデジタルのお金」に見えますが、まず「誰が出しているか」を見ます。トークン化預金は、銀行が出す預金を、ブロックチェーンなどの仕組みの上で動かせるようにする形です。ステーブルコインは、報道の説明では、発行する企業が主に現金や国債などの資産で裏付ける形です。
根拠にしたのは、日本銀行の「日銀レビュー」、金融庁のページ、トークン化預金「DCJPY」を扱うDCPの公式サイトです。報道(CoinPost・@DIME・あたらしい経済)は、一次情報と分けて「〜によると」と書きます。どれも記事の最後にリンクを置いています。
※ 情報提供のみを目的としています。特定の暗号資産・電子決済手段・金融サービスの利用や売買を勧めるものではありません。
目次
塾長とミサキ
11月最初の土曜、ビットコイン予備校の学習スペース。ミサキはスマホのニュースを、さっきから同じところで上へ戻しては読み直していた。
ミサキ画面には、シンガポール主導の、国をまたぐ決済の取り組みを伝える記事の一文があった。「トークン化預金、規制対象ステーブルコイン、決済ネットワークを通じた決済など」。
塾長
ミサキ
塾長
ミサキミサキは画面を下まで送り、また戻した。
ミサキ
塾長
ミサキ
塾長
ミサキ1. トークン化預金とは:預金を、ブロックチェーンなどの上で動かせるようにする取り組み
日本銀行は2024年6月28日、「日銀レビュー」の1本として「海外における『預金のトークン化』の取り組みについて」を出しています(決済機構局の執筆)。要旨の最初の2文です。
近年、海外では「預金のトークン化」に関する取り組みが広がり始めている。ステーブルコインへの注目の高まりとともに、預金という伝統的な支払手段に関しても、分散型台帳技術(DLT)などの技術を活用した決済の機能拡張が検討されている様子がうかがわれる。
「分散型台帳技術(DLT)」の部分を、CoinPost(2026年8月27日)は「ブロックチェーンなどの分散型台帳」という言い方で、次のように説明しています。
トークン化預金とは、商業銀行の預金をブロックチェーンなどの分散型台帳上でトークン化する仕組みだ。
2つを合わせると、トークン化預金は新しい種類のお金を作る話ではなく、預金という、もともとある支払いの手段を、ブロックチェーンなどの新しい仕組みの上でも使えるようにする話だと読めます(当校のまとめ)。
読むときに、2つ気をつけます。
- 日銀レビューは「レポートで示された意見は執筆者に属し、必ずしも日本銀行の見解を示すものではありません」と断っています。日本銀行の公式の見解としては読まないようにします。
- 題のとおり、このレビューが扱っているのは海外の取り組みです。
2. なぜ、わざわざ「預金」の形にするのか
ステーブルコインがあるのに、なぜ預金をトークンにするのか。同じ要旨は、こう書いています。
預金であることを志向する理由としては、マネーの二層構造と親和的であることや、既存の規制や制度と親和的である可能性などが指摘されている。
「親和的」は「なじみやすい」くらいの意味です。理由として挙がっているのは2つです。
- 「マネーの二層構造」となじむこと。 要旨は、この言葉の中身までは説明していません。この記事では「理由の1つとして挙がっている」とだけ受け取り、先へ進みます。
- 今ある規制や制度となじむ「可能性」。 言い切りではなく「可能性」と書かれています。
CoinPostの同じ記事も、トークン化預金は「既存の銀行規制の枠組みの下で機能する」と説明しています。
ここで、場面の塾長の問い(その「預金」は、給料が入る口座の預金と同じ意味か)に答えが出ます。1章のCoinPostの説明のとおり、トークン化預金の「預金」は名前の飾りではなく、商業銀行の預金を指しています。
3. ステーブルコインとは:金融庁は「法定通貨の価値と連動する」ものと書いている
では、ステーブルコインのほうは。金融庁の「暗号資産・電子決済手段関係」のページは、こう書いています。
また、令和5年6月1日から、「電子決済手段等取引業・電子決済等取扱業」(注)に関する新しい制度が開始されました。国内で電子決済手段等取引業・電子決済等取扱業を営むには、それぞれ資金決済に関する法律・銀行法に基づく登録が必要となりました。
(注)
法定通貨の価値と連動するいわゆるステーブルコインの仲介等を業として行うこと。
令和5年6月1日は、2023年6月1日です。読み取れることは2つです。
- 金融庁は、ステーブルコインを「法定通貨の価値と連動する」ものとして書いています(この記事では「円やドルと同じ値打ち」と言い換えています)。
- 日本では、ステーブルコインの仲介などを仕事にする業者の制度が、2023年6月1日に始まりました。
このページが書いているのは「仲介等」の業者の制度です。ステーブルコインそのものを誰が発行できるかは、この記事が保存した資料では確かめていません。
裏付けについては、CoinPostが、ステーブルコインは「発行企業により主に現金や国債などの資産で裏付けられる」と説明しています。円やドルのステーブルコインが実際に何を預けていて、誰に戻せるのかは、当校の記事「ステーブルコインとは?円のJPYC・ドルのUSDC」で読んでいます。
先に予想してください
日本にも、トークン化預金の例があります。「DCJPY」です。@DIMEの記事(2025年12月26日)によると、普段使いの預金口座と紐づく形で、1円=1DCJPYのトークンが発行されます。
名前の最後は「JPY」(円)で、1つが1円。見た目は、円のステーブルコインとよく似ています。そして、DCJPYの公式サイトは「DCP」という会社のサイトです。
では、DCJPYを出している(発行している)のは、どちらでしょう。
A DCP(公式サイトを運営している会社)
B 銀行
決めてから、先へ進んでください。
4. 違いを「誰が出しているか」で並べる
答えはBです。DCPの公式サイトは、自社の仕組みをこう書いています。
銀行が発行するトークン化預金DCJPYを活用し、 ビジネスと決済をシームレスにつなぐプラットフォーム
DCPは、銀行が発行するDCJPYを使うための「場(プラットフォーム)」を用意する側です。@DIMEも、DCP(ディーカレットDCP)を、この「仕組みを手掛ける」会社として紹介しています。
Aを選んだ人は、公式サイトの名前から発行者を考えたはずです。でも、サイトやサービスの名前と、お金を出している人は、同じとは限りません。
この「誰が出しているか」を軸に、CoinPostは2つの違いをこうまとめています。
ステーブルコインが発行企業により主に現金や国債などの資産で裏付けられるのに対し、トークン化預金は銀行自身が発行主体となり、既存の銀行規制の枠組みの下で機能する点が異なる。
CoinPostは同じ記事で、弱い所も書いています。トークン化預金は「発行者間での移動が必ずしも容易ではないため、決済手段としての柔軟性ではステーブルコインに劣る」。銀行ごとに出すので、別の銀行のトークン化預金との受け渡しが、まだ簡単ではないということです。
ここまでの資料を表にします。かっこの中は、その欄の出典です。
| トークン化預金 | ステーブルコイン | |
|---|---|---|
| 出しているのは | 銀行自身(CoinPost)。DCJPYも「銀行が発行する」(DCP公式) | 発行する企業(CoinPost) |
| 中身・裏付け | 銀行の預金(日銀レビュー・CoinPost) | 主に現金や国債などの資産(CoinPost) |
| どんな決まりの下にあるか | 既存の銀行規制の枠組みの下(CoinPost)。既存の規制や制度となじむ可能性(日銀レビュー) | 金融庁は「法定通貨の価値と連動するいわゆるステーブルコイン」と書き、その仲介等の業の制度が2023年6月1日に始まった(金融庁) |
| 発行者をまたいだ使いやすさ | 発行者間での移動が必ずしも容易ではない(CoinPost) | 決済手段としての柔軟性では、トークン化預金はステーブルコインに劣る(CoinPost) |
「預金保険」の違いは、誰の説明かを見て読む
もう1つ、よく挙がる違いがあります。@DIMEの記事で、DCPの平子惠生副社長は、違いの1つを「預金保険制度の対象なのが、ステーブルコインとの違いです」と説明しています。
この一文は、次の2つと合わせて読みます。
- 話しているのは、DCJPYの仕組みを手掛ける会社の副社長です。トークン化預金を広める側の説明です。
- 預金保険でどこまで守られるのか、どのトークン化預金が対象になるのかは、この記事では金融庁や預金保険機構の資料で確かめていません。「トークン化預金なら全部守られる」とは読まないでください。
5. 日本と海外の、最近の動き
日本:DCJPYを貿易の決済に使う検討、ゆうちょ銀行の検討
DCPの公式サイトのニュース欄には、2026年10月28日のプレスリリースとして「STANDAGE、DCP、2028年度の商用化に向け決済一体型貿易プラットフォームの共同検討を開始」とあります。STANDAGE(スタンデージ)は、DCPと一緒に検討する会社です。あたらしい経済(10月28日)は、この話を、商工中金も加えた形で「DCPとスタンデージ、商工中金と『DCJPY』活用の貿易決済基盤を共同検討、2028年度商用化へ」と伝えています。今は「共同検討」の段階で、2028年度の商用化は目標です。
また、@DIMEによると、ゆうちょ銀行は2025年9月1日、トークン化預金の取り扱いの検討を始めたと発表しました。いつから使えるようになるかは、この記事では確かめていません。
海外:銀行や国をまたいで受け渡すための「BLOOM」
場面でミサキが読んでいた記事です。CoinPost(2026年10月24日)によると、シンガポール金融管理局(MAS)は23日、マレーシア中央銀行とタイ中央銀行が「BLOOM」という官民の取り組みに加わったと発表しました。記事は、BLOOMを「トークン化した銀行預金やステーブルコインの決済機能を拡張することを目指すプロジェクト」と説明し、狙いを、政策当局と業界の対話を深め、国境を越えるデジタルマネー取引の相互運用性を高めることだとしています。
なぜ「相互運用性」が話題になるのか(ここでは、別々のところで出されたお金を、互いに受け渡せること、と読みます)。4章の表の最後の行とつながります。CoinPost(8月27日)は、トークン化預金は発行者間での移動が必ずしも容易ではないため、普及には「複数の銀行間でトークンを利用できる仕組みや相互運用性の確立が欠かせない」と書いています。
銀行ごとに出すトークン化預金を、銀行や国をまたいでどう受け渡すか。BLOOMは、その課題を政策当局と業界が話し合う場の1つだと読めます(当校のまとめ)。なお、MASの発表そのものは、この記事では確かめていません。中身はCoinPostの報道によります。
6. まだ決まっていないこと
日銀レビューの要旨は、終わりのほうで、残っている論点をこう書いています。
もっとも、「トークン化された預金」での支払が私法上どのように位置づけられ、スマートコントラクトの活用が非機能面や法的安定性にどのような影響を及ぼしうるかといった論点が残されている。
言い換えると、残っているのは次の2つです。
- トークン化預金で払ったとき、その支払いが法律の上でどう扱われるか。
- スマートコントラクト(報道では「取引の自動化」の手段として説明されます)を使うことが、要旨の言う「非機能面」や、法的な安定性にどう影響しうるか。
銀行の側から見た心配もあります。CoinPost(8月27日)によると、米ダラス連邦準備銀行は25日、トークン化預金が広がると預金金利が市場金利に敏感になり、預金の保有期間が短くなることで、銀行にとって預金の安定性が低下する恐れがある、との分析を公表しました。同じ記事は理由を、預金がトークン化され資金移動が容易になれば、より高い金利を求めて預金が他行へ流出しやすくなる、と説明しています。これは分析の1つで、そうなると決まった話ではありません。
この記事で確かめられなかったことは、最後の「この記事が確認していないこと」にまとめています。
塾長とミサキ(続き)
しばらくして、ミサキがメモを塾長の方へ向けた。一番上の「トークン化預金=ステーブルコイン?」には、線が引いてある。
ミサキ
塾長少し間があって、塾長がメモの端を指で軽くたたいた。
塾長
ミサキ
塾長
ミサキミサキはメモを閉じかけて、もう一度開いた。
ミサキ
塾長今日できること
ニュースに「トークン化預金」「ステーブルコイン」などのデジタルのお金が出てきたら、次の3つを確かめてください。
- まず「出しているのは誰か」の一文を探す。 銀行か、銀行ではない企業か。書いていなければ、発行者の公式の説明を探す。
- サイトやサービスの名前と、発行者を分けて読む。 DCJPYのように、仕組みを用意する会社と、お金を出す銀行が別のことがある。
- 「預金保険の対象」「1円と同じ値打ち」などの言葉は、誰の説明かを見てから受け取る。 発行する側・仕組みを手掛ける側の説明か、公的機関の説明か。
この記事の一次情報と確認日
下の資料は、本文を取得して保存した写しと引用を照合しています(確認日:2026年11月7日)。
一次情報
- (日銀レビュー)海外における「預金のトークン化」の取り組みについて(日本銀行、2024年6月28日):海外で預金のトークン化の取り組みが広がり始めたこと、預金という支払手段をDLTなどで機能拡張する検討、預金の形を志向する理由(二層構造・既存の規制や制度と親和的である可能性)、残る論点(私法上の位置づけ・スマートコントラクトの影響)、意見は執筆者に属し日本銀行の見解とは限らないこと。
- 暗号資産・電子決済手段関係(金融庁):2023年6月1日(令和5年6月1日)からの電子決済手段等取引業・電子決済等取扱業の制度と登録、その注「法定通貨の価値と連動するいわゆるステーブルコインの仲介等を業として行うこと」。
- DCP|トークン化預金プラットフォーム(DCP公式):「銀行が発行するトークン化預金DCJPY」を活用するプラットフォームであること、2026年10月28日のプレスリリースの題(STANDAGEとの決済一体型貿易プラットフォームの共同検討)。
報道(二次情報)
- ダラス連銀が警告、トークン化預金は銀行にとって諸刃の剣か(CoinPost、2026年8月27日):トークン化預金の説明、ステーブルコインとの裏付け・発行主体の違い、発行者間での移動と相互運用性、ダラス連銀の分析(預金の安定性)。
- マレーシアとタイの中銀、デジタルマネーの国際決済を推進する「BLOOM」に参加(CoinPost、2026年10月24日):MASの23日の発表、BLOOMの目的と相互運用性の狙い、参加機関がトークン化預金・規制対象ステーブルコインなどに取り組んでいること。
- 話題の決済インフラ「トークン化預金」は「ステーブルコイン」とどう違う?(@DIME、2025年12月26日):ゆうちょ銀行の検討開始の発表(2025年9月1日)、DCPの平子惠生副社長の説明(預金保険制度の対象なのが違い)、1円=1DCJPYのトークン。
- 【10/28話題】商工中金が「DCJPY」活用の貿易決済基盤を検討ほか(あたらしい経済、2026年10月28日):DCPとスタンデージ、商工中金とのDCJPY活用の貿易決済基盤の共同検討、2028年度商用化の目標。
この記事が確認していないこと
- 預金保険で守られる範囲と、対象になるトークン化預金(金融庁・預金保険機構の資料)
- トークン化預金とステーブルコインの利息の扱い
- ステーブルコインを日本で発行できる者を定めた法律の条文
- ゆうちょ銀行のトークン化預金の開始時期
- MASの発表の原文
この記事は情報提供のみを目的としており、特定の暗号資産・電子決済手段・金融サービスの利用や売買を勧めるものではありません。
連載「ミサキの0からクリプト」
暗号資産をまだ買ったことのない会社員のミサキが、塾長に質問しながら一つずつ確かめていく連載です。第0話から読む →








