ミサキの0からクリプト|第23話
塾長(黒田慎吾)プロフィールを見る
ビットコイン予備校の運営者兼相談役。
Web事業運営とクリプト実務を経験し、目立つ数字や高利回りを先に見て出口確認が遅れた自身の失敗を、初心者に繰り返させないために相談に乗っている。答えを急がせず、ミサキが自分で確認質問を作れるように、順番を整えることを大事にしている。
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資産運用を学び始めた会社員。
NISAなどはすでに始めているが、暗号資産は未購入・未経験。分からないことをそのまま質問できる一方、大きな数字を先に比較してしまう癖がある。塾長とは初心者向けの勉強会で知り合って数か月になる。
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画面を押すと閉じます第22話で、スーパーの値札から、お札で買える量が変わることに気づき、「円のまま持つのと、外貨で持つのとでは、何がちがうのか」と思ったミサキが、3日後の火曜の夜、仕事帰りに予備校の学習スペースで、塾長に銀行のアプリの画面を見せる場面です。
「ドルにしておけば、困らないですよね」。外貨預金の画面を開いたミサキに、塾長は一つだけ聞きます。今日ドルに替えて、明日そのまま円に戻したら、いくらになるか。

晩秋の火曜の夜。仕事帰りに寄った予備校の学習スペースは、暖房が少し強かった。
ミサキはコートを椅子の背に掛けて、机の向かいの塾長にスマートフォンを向けた。開いているのは、自分の口座がある銀行のアプリの、外貨預金の画面だ。
日曜の夜、ソファでこの画面を見つけてから、気づけばタブが十いくつに増えていた。外貨預金、外貨定期預金、外貨普通預金。読むほど、どれが何なのか分からなくなった。
それでも、一つだけ思ったことがある。
ミサキ塾長、私、外貨預金を調べてたんです。
年末の旅行のホテル代って、ドルで決まってるじゃないですか。
だったら、貯金の一部を今のうちにドルにしておけば、この先円安になっても困らないですよね。
使わなかったら、また円に戻せばいいし
塾長ドルで持つかどうかを決める前に、一つだけ。
今日、円をドルに替えて、明日そのまま円に戻したら、いくらになると思う?
ミサキ明日ですか。
相場が動かなければ……同じ金額、ですよね。
……あれ、でも前に販売所で、買う値段と売る値段がちがったことがありました
塾長いいところを覚えてたな。
じゃあ、その画面で確かめてみよう。
ドルの値段、いくつ出てる?
画面を下へたどる。米ドルの行に、数字が二つ並んでいた。「円→ドル 153.00円」「ドル→円 151.00円」。
今朝、ニュースアプリで見た相場は、1ドル=152円ちょうどだった。
ミサキ二つあります。
替えるときは153円で、戻すときは151円……。
今朝のニュースの152円は、どっちでもないです
塾長そこが今日の本題だな。
全国銀行協会のページに説明があるから、一緒に見よう。
……上がTTSで、下がTTBと呼ぶそうだ。
銀行ごとに決めていて、為替手数料も銀行によってちがう、とある
ミサキ塾長、急にアルファベットが二つ出てきました。
しかも、どっちも「TT」から始まるんですけど
塾長悪い、言い直す。
上は、銀行がドルを売ってくれる値段。
下は、銀行がドルを買い取ってくれる値段だ
ミサキ買うときと、売るときの値段……。
販売所のときと同じ形です。
それに、行きだけでも、ニュースの152円より1円高い153円で替えることになるんですね。
ちょっと待ってください、往復も計算してみます
ミサキは電卓を開いた。分かりやすいように、1,000ドルで考える。
替えるときは、1,000ドル×153円で、15万3,000円。それを明日そのまま戻すと、1,000ドル×151円で、15万1,000円。
ミサキ2,000円、減ってます。
相場は、1円も動いてないのに。
替えて戻すだけで、往復の分がかかるんだ
塾長そう。
それに、明日の相場が円高に動いていたら、戻すときの値段はもっと下がる。
ドルでの金額が同じでも、円に戻すと、預けたときより減ることがある
ミサキ私、円安になったら困る、ってことしか見てませんでした。
「使わなかったら戻せばいい」の、戻すときの値段も、手数料のことも、考えてなかったです。
販売所で、買う値段と売る値段の差は見えにくい費用だって書いたのに
ドルにするかどうかは、今日は決めないことにした。まずは、自分の銀行の手数料のページを、ちゃんと読んでからだ。
ミサキはメモ帳を開いた。「0.大きい数字から比べない」「誰の、いつの数字か」の下に、もう一行足す。「替える前に、往復でいくらかかるか」。
塾長決めるのは、今日じゃなくていい。
円(えん)とは長い付き合いだ。
これも何かの縁(えん)だな
ミサキ……今のは、往復で2,000円分すべりました
塾長……
ミサキ……片道の1,000円分だけ、笑っておきます
学習スペースを出ると、駅までの道はすっかり冷えていた。駅前の百貨店のショーウインドウに、「金(きん)」の売り場の案内が出ている。
円でも、ドルでもないもの。金の値段も、買うときと売るときで、ちがうんだろうか。
目次
外貨預金とは? 替えるときと戻すときで、ドルの値段が2つある理由
・外貨預金とは何か
・円と外貨を替えるレートが2つ(TTS・TTB)あること
・相場が動かなくても、替えて戻すと手数料の分が減ることが多いこと
この記事は、為替の先行きを予想したり、外貨預金や外貨、特定の商品・サービスをすすめたりするものではない。また、物語の「153円」「151円」「152円」は、しくみを説明するための仮の数字で、実際の相場や手数料とは関係ない。
まず、外貨預金とは何か。全国銀行協会は、日本円を外国の通貨に換えて預ける預金を「外貨預金」と説明している。定期で預ける外貨定期預金のほかに、外貨普通預金などもある。利息も外貨で支払われる。
円と外貨を替えるときの交換のレートは、2つある。全国銀行協会によると、円から外貨に替えるときのレートがTTS(電信売相場)、外貨から円に替えるときのレートがTTB(電信買相場)だ。TTS・TTBは各銀行が独自に定めていて、手数料は銀行によって異なる。円と外貨を交換するときには為替手数料がかかることが多く、外貨のままでの預け入れや引き出しに手数料がかかることもある、とも書いている。
ここで、第21話で残した疑問に戻る。第21話で見たとおり、日本銀行によると、個人が外貨預金などをするときの相場は、ニュースの相場(インターバンク取引の相場)とは異なる。全国銀行協会は、外貨両替のレートが銀行によって異なるのは、銀行ごとに市場のレートに手数料を加味して決めているためだ、と説明している。なお、現金を両替する場合の手数料は、外貨預金の為替手数料とは異なるのが通常だという。
では、予想してみてほしい。物語と同じ仮の数字で、TTSが1ドル=153円、TTBが1ドル=151円だとする。15万3,000円を1,000ドルに替えて、相場が動かないうちにすぐ円に戻すと、手元の円はいくらになるだろうか。
答えは、15万1,000円だ。替えるときは1ドル153円なので、15万3,000円が1,000ドルになる。戻すときは1ドル151円なので、1,000ドルは15万1,000円になる。相場が動かなくても、替えるときと戻すときの値段の差の分、この例では2,000円少なくなる。為替手数料は、円を外貨に替えるときだけでなく、外貨を円に戻すときの交換にも関わってくる。
次に、相場が動いたとき。全国銀行協会によると、円に替えるときの為替レートが、預け入れたときより円安になっていれば為替差益が、円高になっていれば為替差損が生じる。外貨での金額は預けたときのままでも、円に戻した金額は、預け入れたときより減ることもある。ミサキが考えた「円安になっても困らない」には、円高に動いたときと、手数料のことが入っていなかった。
もう一つ、第16話でふれたことも確かめておく。預金保険機構は、預金保険の対象とならない預金等の一つに外貨預金を挙げている。名前に「預金」と付いていても、預金保険の扱いは、円の普通預金や定期預金とはちがう。
まとめると、外貨預金を調べるときは、次の3つを見ておきたい。
- 替えるときと戻すときのレート(TTS・TTB)は、それぞれいくらか
- 往復で、手数料がいくらかかるか(銀行によって異なる)
- 円高に動いたら、円に戻したときにいくらになるか
実際のレートや手数料は、銀行によって異なる。全国銀行協会も、詳しくは取引している銀行に確かめるよう書いている。
ミサキ、金の値段を見る
次は、百貨店の売り場にて。円でもドルでもない「金」には、どんなふうに値段がついているのか。ミサキは、一人で売り場をのぞいてみます。
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