
「ビットコインハッシュレートが回復」。ニュースでこんな見出しを見て、ハッシュレートって何? 上がるといいことなの? と調べに来た人に向けた記事です。
先に、この記事が渡すことを1つだけ書きます。
ハッシュレートは、ビットコインのネットワーク全体が1秒あたりにできる計算の回数(計算力)を表す数字です。その計算の量が、過去の取引の記録を書き換えにくくしています(守り)。ハッシュレートが上がっても下がっても、ブロックができる間隔は、決まった区切りごとに計算の難しさを見直す仕組み(難易度の見直し)で、元に近づくように作られています。だから「上がった・下がった」の報道は、どのデータの、何日平均の数字かを確かめて読み、値段の予想とは結び付けません。
仕組みの根拠にしたのは、bitcoin.org の用語集(日本語)と、ビットコインの開発者向け資料(Bitcoin Developer Guide、英語)です。最近の数字は、CoinPostの2026年10月24日の記事が伝えたものを、出典を分けて使います。どれも記事の最後にリンクを置いています。
※ 情報提供のみを目的としています。暗号資産の売買や、マイニングへの参加を勧めるものではありません。
目次
塾長とミサキ
晩秋の週末、ビットコイン予備校の学習スペース。ミサキは席に着くなり、スマホの画面を塾長の方へ向けた。
ミサキ
塾長
ミサキ
塾長
ミサキ
塾長
ミサキ
塾長1. ハッシュレートとは:ネットワークの「計算力」を測る単位
bitcoin.org の日本語の用語集は、ハッシュレートをこう説明しています。
ハッシュレートは、ビットコインネットワークの計算力の測定単位です。ビットコインネットワークは安全上、多量の数学的処理を行います。ネットワークがハッシュレート 10 TH/s に達したという事は、一秒あたり10兆回の計算が可能であるという事です。
単位の読み方は、この例のとおりです。
- H(ハッシュ):計算の回数
- /s:1秒あたり
- T(テラ):10 TH/s が「1秒に10兆回」なので、1 TH/s は1秒に1兆回
ニュースには、別の単位も出てきます。CoinPostの記事では「EH/s(エクサハッシュ/秒)」が使われています。HとsはTH/sと同じで、「1秒あたりの計算の回数」を表す単位です。
大事なのは、ハッシュレートは「計算の量」を測る数字で、値段を測る数字ではないということです。では、その計算は何のためにしているのでしょうか。
2. 何の計算か:基準より小さい数が出るまで引き続ける「くじ」
ハッシュという計算
開発者向け資料によると、ハッシュは、どんなデータもでたらめに見える数に変える計算です。データを少しでも変えて計算し直すと、まったく別の、でたらめに見える数が出ます。出る数を狙って予想することはできません。
「当たり」は、基準より小さい数
同じ資料によると、新しいブロックを記録に足せるのは、ブロックの見出しにあたる部分(ブロックヘッダー)をハッシュにかけて、決められた基準の値より小さい数を出せたときです。出る数は予想できないので、ブロックヘッダーの中の変えやすい欄(ナンスという欄など)を変えては計算し直すことを、当たるまで繰り返します。マイニングの章は、マイニング用の機械(ASIC)がしていることをこう書いています。
The mining hardware iterates through every possible value for the block header nonce and generates the corresponding hash.
マイニング用の機械は、ブロックヘッダーのナンス(変えやすい欄)に入りうる値を1つずつ試し、それぞれのハッシュを出していく(当校による訳)
さらに資料は、基準の値を低くする(厳しくする)ほど、当たりが出るまでに試す回数が平均して増える、と書いています。
当校のたとえで言えば、ハッシュを1回計算することは、くじを1枚引くことです。基準が厳しいほど、当たりは出にくくなります。ハッシュレートは、ネットワーク全体で1秒に何枚のくじを引いているかにあたります。
なぜ、くじを引き続けるのか
用語集のマイニングの項には、こうあります。
その仕事に対する報酬として、ビットコインマイナーは、新しく生成されたビットコインと共に、承認したトランザクションの手数料を受信する事ができます。マイニングは、計算量によって報酬が割り振られる、専門的な競争市場です。
当たりを出してブロックを足した人が、新しいビットコインと手数料を受け取る。計算の量で報酬が割り振られる競争です。同じ項は「全てのビットコインユーザーがマイニングをしているわけではなく、マイニングで稼ぐ事は簡単ではありません」とも書いています。
3. なぜ「守り」になるのか:書き換えるには、計算をやり直す必要がある
場面でミサキが引っかかったところです。記録はみんなで持ち合っているのに、なぜ、こんなに計算が要るのか。
開発者向け資料は、理由をこう書いています。
The block chain is collaboratively maintained by anonymous peers on the network, so Bitcoin requires that each block prove a significant amount of work was invested in its creation to ensure that untrustworthy peers who want to modify past blocks have to work harder than honest peers who only want to add new blocks to the block chain.
ブロックチェーンは、ネットワーク上の匿名の参加者どうしが共同で保っている。そのためビットコインは、各ブロックに、作るときに相当な量の仕事をかけたことの証明を求める。過去のブロックを書き換えたい信用できない参加者が、新しいブロックを足していくだけの正直な参加者よりも多く働かなければならないようにするためだ(当校による訳)
記録を持ち合っているのは、名前も分からない参加者どうしです。だから、「誰が言っているか」ではなく「どれだけ計算をかけたか」を、記録を守る支えにしている、と読めます(当校のまとめ)。
後ろのブロックまで、全部作り直す
各ブロックは1つ前のブロックの情報を持ち、鎖のようにつながっています。資料によると、だから、あるブロックの取引を変えるには、その後ろのブロックをすべて作り直さなければなりません。あるブロックを書き換える手間は、新しいブロックが足されるたびに大きくなります。
資料によると、書き換えたブロックを広めるには、平均して、元のブロックが作られてから今までにネットワーク全体が使ったのと同じだけの計算力が要ります。どのブロックも基準より小さいハッシュを出さなければならず、しかも1つ前のブロックとつながっているからです。また資料は、記録が分かれたとき、参加者は作り直すのに最も手間のかかる鎖に従う、とも書いています。用語集の「承認」の項も、取引が後のブロックに含まれて承認を受けるたびに、取り消されるリスクが「飛躍的に」減ると書いています。
「51%攻撃」という考え方と、資料が付けている留保
では、どれだけの計算力があれば書き換えられるのか。資料はこう書いています。
Only if you acquired a majority of the network’s hashing power could you reliably execute such a 51 percent attack against transaction history (although, it should be noted, that even less than 50% of the hashing power still has a good chance of performing such attacks).
ネットワークの計算力の過半を手に入れた場合にだけ、取引の履歴に対するこうした「51%攻撃」を確実に行える(ただし、計算力が50%未満でも、こうした攻撃が成功する見込みはかなりある点に注意が要る)(当校による訳)
ここから、ハッシュレートを「守り」の大きさとして読める理由が見えます。記録を確実に書き換えるには、ネットワーク全体の計算力の過半が要る。ネットワーク全体のハッシュレートが大きいほど、その「過半」も大きくなる、ということです(当校のまとめ)。
ただし、資料自身が括弧で書いているとおり、50%を超えなければ安全、という線があるわけではありません。ハッシュレートは書き換えにくさを表す物差しの1つで、「この数字以上なら絶対に安全」と言える数字ではありません。
先に予想してください
上場しているマイニング企業がAIの事業へ移るなどして、マイニングの機械が大きく減り、ハッシュレートが下がったとします。新しいブロックができる間隔は、どうなるでしょうか。
A 計算する機械が減ったのだから、ブロックはずっと遅くなったまま
B しばらくは遅くなるが、仕組みの見直しで、元の間隔に近づくよう調整される
決めてから、先へ進んでください。
4. ハッシュレートが上がる・下がると何が起きるか:2,016ブロックごとの見直し
答えはBです。開発者向け資料は、ブロックを足すときの基準(難易度)を、決まった間隔で見直すと書いています。
Every 2,016 blocks, the network uses timestamps stored in each block header to calculate the number of seconds elapsed between generation of the first and last of those last 2,016 blocks. The ideal value is 1,209,600 seconds (two weeks).
2,016ブロックごとに、ネットワークは各ブロックヘッダーの時刻から、直近2,016ブロックの最初から最後までにかかった秒数を計算する。理想の値は1,209,600秒(2週間)だ(当校による訳)
かかった時間が理想より短いか長いかで、難易度をこう変えます。難易度を上げると、2章の「当たりの基準」が厳しくなります。
If it took fewer than two weeks to generate the 2,016 blocks, the expected difficulty value is increased proportionally (by as much as 300%) so that the next 2,016 blocks should take exactly two weeks to generate if hashes are checked at the same rate.
2,016ブロックを作るのに2週間かからなかったら、難易度を(最大300%まで)比例して上げる。同じ速さでハッシュが計算されれば、次の2,016ブロックがちょうど2週間で作られるようにするためだ(当校による訳)
If it took more than two weeks to generate the blocks, the expected difficulty value is decreased proportionally (by as much as 75%) for the same reason.
2週間より長くかかったら、同じ理由で、難易度を(最大75%まで)比例して下げる(当校による訳)
まとめると、こうなります。
| ハッシュレートが | ブロックは | 次の見直しで | その後の間隔(ハッシュレートがそのままなら) |
|---|---|---|---|
| 上がる | 速く見つかる | 難易度を上げる(最大300%) | 元に近づく |
| 下がる | 遅くなる | 難易度を下げる(最大75%) | 元に近づく |
「最大300%」「最大75%」は資料の言い方のままです。1回の見直しで変えられる幅には上限がある、と読んでください。
1,209,600秒を2,016ブロックで割ると600秒、つまり1ブロックあたり約10分です。bitcoin.org の用語集の「ブロック」の項にも、約10分毎に新しいブロックが追加されるとあります。
Aを選んだ人の読みも、半分は当たっています。見直しは2,016ブロックごとなので、次の見直しまでは、ブロックは遅いままです。ずっと遅いままにはならない、というのが答えです。
戻るのは「間隔」で、「計算の量」ではない
ここで1つ、取り違えやすいところがあります。見直しで元に近づくのは、ブロックができる間隔です。抜けた機械が戻ってくるわけでも、ハッシュレートそのものが戻るわけでもありません。3章で見たとおり、書き換えにくさは計算力の大きさに支えられています。難易度の見直しは間隔を保つ仕組みで、守りの大きさを元に戻す仕組みではない、と当校は整理します。
「ハッシュレートが下がった」と聞いたときに言えるのは、仕組みの上では、ブロックの間隔は見直しのたびに元へ近づけられる、ということです。ただし、下がった分の計算の量は、見直しでは戻りません。
5. 報道の数字の読み方:「誰のデータ」「何日平均」「誰の推定」に分ける
最初の見出しに戻ります。CoinPostは2026年10月24日、「ビットコインハッシュレートが回復、上場マイナーのAI事業転換進む中」という記事を出しました。この記事の数字を、3つに分けて読んでみます。
① 誰のデータか
記事によると、オンチェーン分析企業のクリプトクアントが10月22日に週間レポートを出しました。記事の8.8%の文の後には「出典:クリプトクアント」とあります。CoinPostが自分で数えた数字ではない、ということです。
② 何日の平均か
8.8%の文は、こう書かれています。
一方で、ビットコイン・ネットワーク全体の30日平均ハッシュレート(計算能力)は、ピークから8.8%下の水準まで回復している。
30日平均、つまり30日分をならした数字です。1日ごとの数字や、7日の平均とは、同じ日でも一致するとは限りません。
同じ記事は、別の段落で次の数値も伝えています。
| 時点 | 記事に書かれた数値 |
|---|---|
| 2025年11月11日(過去最大) | 1,101 EH/s |
| 2026年8月6日 | 899 EH/s(ピークから18.3%下) |
| 現在(20日時点) | 1,004 EH/s(ピークから8.8%以内) |
「20日時点」は記事の書き方のままです。レポートの日(22日)や記事の日(24日)とは別の日付なので、どの日の数字かを取り違えないようにします。
この段落には、何日平均の数値かは書かれていません。「8.8%」が同じなので同じデータとも読めますが、記事の文だけでは決められません。数字を人に伝えたり、別の記事の数字と比べたりするときは、何日平均かが書かれた文を探してから使うのが確かです。
③ 誰の推定か
AIへの転換の影響について、記事はこう書いています。
これにより、CoinSharesは35 EH/s(エクサハッシュ/秒)以上が上場マイナーのハッシュレートから脱落すると推定している。
これはCoinSharesという別の会社の推定で、これから抜ける分の見込みです。クリプトクアントの30日平均とは、言っている会社も、数字の向き(今までの数字か、これからの見込みか)も違います。
AIへの転換が進んでいるのに、なぜハッシュレートが回復したのか。記事は、8月6日以降、ネットワーク全体で約105 EH/sが新たに加わったと書いています。そのうえでクリプトクアントは、民間事業者、国家系事業者、米国外の事業者が運用する新しい世代の機械が、抜けた分に取って代わっているとの見方を示しています。ここは、クリプトクアントの見方として読みます。
値段とは結び付けない
同じ記事にも、値段は出てきます。ただし向きに気をつけてください。記事によると、CoinSharesは、2026年4~6月期の上場マイニング企業の1BTCあたりのコストが約75,500ドル、BTC価格が58,400ドルで、採算が合わない状況だったとしています。そのため、効率の低い上場マイナーがAIの事業へ移った、という流れです。これは値段がマイナーの動きに関わったという話で、ハッシュレートから値段の行方を読む話ではありません。
記事はまた、クリプトクアントのキ・ヨンジュCEOの「ハッシュレートの上昇は、ネットワークのセキュリティの強化を意味するほか、ビットコインの価値の保存手段としてのファンダメンタルズが向上していることを示唆するものだ」という見解も伝えています。前半は3章の話と同じ向きです。後半は1人の見方として読み、値段の予想には使いません。
ハッシュレートは、1章で見たとおり計算の量を測る数字です。見出しの「回復」は計算の量が戻ったという意味で、値段が上がる合図という意味ではありません。
6. まだ言えないこと
- ネットワーク全体のハッシュレートを、誰がどうやって数えているか。 この記事では確かめていません。
- 今のハッシュレートの正確な値と、過去最高の日付・値。 データを出している会社の公式のページ(クリプトクアントのレポートを含む)では確かめていません。上の数値は、CoinPostの記事が伝えたものです。
- AIへの転換で、ハッシュレートがこれからどうなるか。 CoinSharesの推定と、クリプトクアントの見方があるだけです。
- ハッシュレートから値段の行方が分かるか。 CoinPostの記事にあるのは、値段がマイナーの採算に関わったという話と、CEOの見解だけです。この記事では値段の予想はしません。
- 「ハッシュレートが何%あれば安全か」という線。 開発者向け資料は、50%未満の計算力でも攻撃が成功する見込みはあると書いています。
塾長とミサキ(続き)
しばらくして、ミサキがメモを塾長の方へ滑らせた。一番上の「上がる=値上がりの合図?」には、線が引いてある。
ミサキ
塾長
ミサキ
塾長
ミサキ
塾長今日できること
ハッシュレートのニュースを見たら、次の4つを確かめてください。
- 見出しの数字の前に、本文で「出典」を探す。 報道した会社が自分で数えた数字か、別の会社のデータか。
- 何日平均の数字かを確かめる。 書かれていなければ、その数字を別の数字と比べない。
- 「推定」「見方」と書かれた文は、誰の推定・見方かを確かめる。
- 「上がった=値上がり」「下がった=危ない」と、1つの数字だけで決めない。 下がったと聞いたら、2,016ブロックごとの見直しで間隔は元に近づくこと、ただし計算の量は戻らないことを思い出す。
この記事の一次情報と確認日
下の資料は、本文を取得して保存した写しと引用を照合しています(確認日:2026年10月31日)。英語の資料の訳は当校によるものです。
一次情報
- ビットコイン用語集(bitcoin.org 日本語版):ハッシュレートの定義と単位(10 TH/s=1秒に10兆回)、マイニングの定義・報酬(新しいビットコインと手数料)・計算量で報酬が割り振られる競争・稼ぐことは簡単ではないこと、ブロックが約10分毎に追加されること、承認を受けるたびに取り消されるリスクが減ること。
- Block Chain — Bitcoin Developer Guide(英語):ハッシュの性質、基準より小さいハッシュを出すと新しいブロックを足せること、基準を低くするほど試す回数が増えること、ナンスなどの変えやすい欄、各ブロックが前のブロックとつながっていること、仕事の証明を求める理由、後ろのブロックをすべて作り直す必要、書き換えたブロックを広めるのに要る計算力、参加者が作り直しに最も手間のかかる鎖に従うこと、51%攻撃と50%未満でも成功の見込みがあること、2,016ブロックごとの難易度の見直し・理想2週間・最大300%と最大75%。
- Mining — Bitcoin Developer Guide(英語):マイニング用の機械(ASIC)がナンスを試しながらハッシュを出すこと、基準より小さいハッシュが見つかるとブロックとして送られること。
報道(二次情報)
- ビットコインハッシュレートが回復、上場マイナーのAI事業転換進む中(CoinPost、2026年10月24日):クリプトクアントの週間レポート(22日)、30日平均ハッシュレートがピークから8.8%下まで回復、1,101・899・1,004 EH/s の数値、CoinSharesの35 EH/s以上の推定、8月6日以降の約105 EH/sの追加、クリプトクアントの見方(新しい世代の機械が抜けた分に取って代わっている)。
この記事が確認していないこと
- クリプトクアントの週間レポート(10月22日)の本文
- ネットワーク全体のハッシュレートの数え方
- 今のハッシュレートの値(データを出している会社の公式のページ)
- ハッシュレートから値段の行方が分かるか
- 単位の「E(エクサ)」の大きさ
この記事は情報提供のみを目的としており、暗号資産の売買やマイニングへの参加を勧めるものではありません。
連載「ミサキの0からクリプト」
暗号資産をまだ買ったことのない会社員のミサキが、塾長に質問しながら一つずつ確かめていく連載です。第0話から読む →








