
ビットコインのソフト「Bitcoin Core(ビットコイン・コア)」の開発者が、10月28日、脆弱性(プログラムの弱点)を公表しました。Linux以外のOSで動いているBitcoin Coreに、悪意のある接続相手が特殊なデータを送ると、メモリが尽きて止まってしまうおそれがあった、という内容です。修正版(29.5・30.4・31.2・32.1)は、公表の前日と当日に、すでに出ています。
見出しが「BTCのソフトに脆弱性」なら、ビットコインそのものに穴があいたのか、と身構えるのは自然です。開発者の公表を読むと、止められうるのは、ある条件にあてはまるコンピューターでした。そこで、この記事では読み方の順番を1つだけ持ち帰ってもらいます。
「脆弱性」のニュースは、①何のソフトの話か ②自分はそれを動かしているか ③深刻度はどの段階か、の順で読む。
材料の中心は、開発者の公表、深刻度の決まりを書いたページ、修正版のリリースノート、Bitcoin Coreの紹介ページです(報道は第7章で1本だけ紹介します)。英語の原文の該当箇所を引用するので、読者が自分で確かめ直せます。
※ この記事は、Bitcoin Coreや特定のソフト・サービスの利用を勧めるものではありません。価格の見通しも示しません。英文の訳は当校によるものです。
目次
塾長とミサキ
月曜の夜。夕飯の片づけを終えたミサキは、膝にブランケットを掛けてソファの端に座り、予備校の週間まとめをスマホで読んでいた。BTCの項目に「脆弱性」の見出しを見つけて、そのまま塾長にメッセージを打った。
ミサキ返事は数分で来た。
塾長
ミサキ
塾長ミサキは「OSで分かれる」のところで指を止めて、週間まとめの段落をもう一度読んだ。「修正版がすでに出ており」と書いてある。
ミサキ
塾長1. 何が公表されたのか
開発者の公表(CVE-2026-117350)の最初の段落は、次のとおりです。
On platforms other than Linux, a malicious peer could cause a node to run out of memory by sending TCP urgent (out-of-band) data. A fix for this issue was released in Bitcoin Core versions 29.5, 30.4, 31.2 and 32.1.
Linux以外の環境では、悪意のある接続相手が、TCPの緊急データ(out-of-band data)を送ることで、ノードのメモリを尽きさせることができた。この問題の修正は、Bitcoin Coreの29.5・30.4・31.2・32.1で配布された。
Linux(リナックス)とBSDは、WindowsやmacOSと並ぶOS(パソコンを動かす土台のソフト)の種類です。「ノード」と「接続相手」は第2章で説明します。
公表は、Linuxについてははっきり書いています。
Bitcoin Core users on Linux are therefore not affected by this issue.
したがって、LinuxでBitcoin Coreを使っている人は、この問題の影響を受けない。
どうして止まるのか(読み飛ばしても大丈夫です)。 Bitcoin Coreには、1つの接続相手から届いたデータがたまりすぎたら、その相手からの受け取りをいったん止める仕組みがあります。ところが、Linux以外で使われている通信の見張り方では、受け取りを止めているはずの間にも、特別な合図のついたデータ(TCPの緊急データ)が届くと読み込みが始まってしまい、データが上限なくたまっていきました。公表は、結果をこうまとめています。
In practice, this means a malicious peer can trivially crash any Windows, macOS or BSD node it is connected to.
実際には、悪意のある接続相手は、自分がつながっているWindows・macOS・BSDのノードを、簡単に止める(クラッシュさせる)ことができる。
ここまでで、確認点の①は答えが出ます。何のソフトの話か:Bitcoin Core。止められうるのは、Linux以外(Windows・macOS・BSD)で動くBitcoin Coreのノードです。
2. 前提を2つだけ
第1章で出てきた「ノード」と、Bitcoin Coreの説明に出てくる「フルノード」を説明します(OSについては、リリースノートも、Bitcoin Coreが対応するOSとして、Linux・macOS・Windowsを挙げています)。
ノード。 週間まとめでは「BTCの取引記録を持ち、ネットワークを支えるコンピューター」と書きました。ノードは、ほかのノードとつながって、データをやり取りしています。公表の「接続相手(peer)」は、そうしてつながっている相手のことです。
Bitcoin Coreと、フルノード。 Bitcoin Coreの紹介ページは、こう説明しています。
Bitcoin Core consists of both “full-node” software for fully validating the blockchain as well as a bitcoin wallet.
Bitcoin Coreは、ブロックチェーンを完全に検証する「フルノード」のソフトと、ビットコインのウォレット(自分で管理するための財布)の両方からなる。
ここで1つ、気をつけたいことがあります。Bitcoin Coreはウォレットも兼ねています。Bitcoin Coreのウォレットを使っている人は、使っているのがBitcoin Coreそのものなので、この記事の「動かしている人」に入ります。「ノードなんて動かしていない、ウォレットを使っているだけ」と思っていても、そのウォレットがBitcoin Coreなら、確認点の②の答えは「動かしている」です。
3. 先に、1つだけ予想してください
Bitcoin Coreの開発者は、見つかった弱点を4つの段階に分けています。深刻度の決まりのページから、要点を訳しました。
| 段階 | 開発者の定義(要約) |
|---|---|
| Critical(重大) | ビットコインのネットワーク全体の安全を脅かす弱点。仕組み(プロトコル)の段階でコインを盗めるもの、決められた発行のスケジュールの外でコインを作れるもの、ネットワーク全体を永久に分けてしまうもの |
| High(高) | 影響を受けるノードやネットワークへの影響が大きい弱点。たいてい、標準の設定のまま遠くから悪用でき、広く混乱を起こしうる。例として「遠くから起こせて、多くのノードを止めうるクラッシュ」 |
| Medium(中) | ネットワークやノードの性能・働きを目に見えて落とすが、範囲や悪用のしやすさが限られる弱点。標準でない設定のときだけ起きるものや、ノードが完全に止まるのではなく働きが落ちるものなど |
| Low(低) | 悪用が難しいか、ノードの働きへの影響が小さい弱点 |
開発者は、今回の弱点(接続相手が、Windows・macOS・BSDのノードを簡単に止められる)を、4つのどれにしたでしょう。
決めてから、次へ進んでください。
4. 答え:Medium(中)です
公表には、こう書かれています。
This issue is considered Medium severity and easily discoverable.
この問題は、深刻度「中(Medium)」で、かつ「見つけやすい(easily discoverable)」ものとされる。
Criticalではない。 ミサキが最初に怖がった「ビットコインそのものに穴」に当たるのは、表のいちばん上、Criticalです。決まりのページの原文は、Criticalをこう定義しています。
These are bugs that allow for coin theft at the protocol level, the creation of coins outside of the specified issuance schedule, or permanent, network-wide chain splits.
仕組み(プロトコル)の段階でコインを盗めるもの、決められた発行のスケジュールの外でコインを作れるもの、ネットワーク全体を永久に分けてしまうもの。
今回の公表に書かれているのは、接続しているノードを止められることです。コインを盗めるとも、コインを作れるとも書かれていません。開発者自身が、この段階には置いていません。確認点の③の答えは「中(Medium)。コインを盗める段階ではない」です。
Highを選んだ方へ。 その読み方には根拠があります。決まりのページは、Highの例として、表に載せた例のほかに「遠くから起こせるメモリの使い果たしで、ノードを止めるもの」も挙げていて、今回と似ているように見えます(当校の見方)。一方、Mediumの定義は「範囲や悪用のしやすさが限られる」で、例には「完全に止まるのではなく働きが落ちる」ものも入っています。開発者が今回をHighではなくMediumにした理由は、公表には書かれていません。当校が理由を推し量って埋めることはしません。言えるのは、開発者が「中」とし、「重大」とはしていない、というところまでです。
5. 誰が見つけ、いつ知らせたのか(年表)
ミサキが引っかかった「発表より、直すほうが先」の順番は、公表の年表に載っています。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 10月23日 | Spiral(スパイラル)でエリアス・ローラー(Elias Rohrer)氏が進める、AIを使った自動の点検「Project Loupe」が問題を見つけ、グレゴリー・サンダース(Gregory Sanders)氏に知らせる。同氏が報告を確かめ、同じ日にBitcoin Coreのセキュリティチームへ知らせる |
| 10月26日 | 修正の変更が出され、取り込まれる。29・30・31・32の4つの系列にも移される |
| 10月27日 | 修正の入った31.2と32.1が出る |
| 10月28日 | 修正の入った29.5と30.4が出る。同じ日に公表 |
公表は、見つけた方法を「automated LLM scan(LLM=大規模言語モデルという種類のAIによる、自動の点検)」と書いています。AIは、ここでは弱点を見つけて知らせる側で使われていました。
直した版が先、公表が後。 見つかってから公表までは5日でした。この順番と速さには、決まりのページの方針が関わっています。開発者は、弱点を「見つけやすい」かどうかで分けていて、その基準を「わずかな手間で、たとえばAIに簡単な指示を出すだけで見つかるもの」としています。そのうえで、方針はこう書いています。
For easily discoverable vulnerabilities, we will publish a point release containing the fix for each maintained major version as soon as possible, along with a security advisory, without applying the standard severity-dependent embargo periods.
見つけやすい弱点については、サポート中の各系列に修正を入れた版をできるだけ早く出し、セキュリティの公表を同時に行う。深刻度ごとの、ふつうの公表を待つ期間は取らない。
ふつうの方針では、MediumとHighの弱点は、影響を受ける最後の版のサポートが終わってから2週間後に公表するとされ、その時期は「修正の入った版が最初に出てから約1年後」と書かれています。今回は「見つけやすい」とされたので、その待ち期間を取らずに、修正版と一緒に公表されました。
簡単に見つかる弱点なら、公表を遅らせても、ほかの誰かが先に見つけてしまうおそれがある。だから直したらすぐ知らせる、という考え方だと読めます(当校の見方。方針の文そのものには、理由は書かれていません)。
6. 自分が当てはまるかを確かめる
確認点の②です。上から順に見てください。
1)Bitcoin Coreを、自分で入れて動かしているか。 入れていなければ、この弱点のあるソフトを自分では動かしていません。取引所に預けているだけの人や、別のウォレットのアプリを使っている人の場合、それぞれのサービスやアプリがどう動いているかは、この公表には書かれていません。この記事で言えるのは、「Bitcoin Coreを自分で動かしているかどうか」までです。Bitcoin Coreのウォレットを使っている人は、第2章のとおり「動かしている」に入ります。
2)動かしているOSは何か。 Linuxなら、公表のとおり、この問題の影響を受けません。Windows・macOS・BSDなら、次へ進みます。
3)使っている版はどれか。 修正が入っているのは、29.5・30.4・31.2・32.1です。これより前の版がどこから影響を受けるのかは、公表に書かれていません。公表が修正の入った版として挙げているのは29〜32の4つの系列で、それより古い系列の修正版は挙がっていません。迷う場合は、修正の入った版に入れ替えるのが、いちばん分かりやすい対応です(当校の見方)。
入れ替え方(Windows・macOS)。 32.1のリリースノートは、更新の手順をこう書いています。
If you are running an older version, shut it down. Wait until it has completely shut down (which might take a few minutes in some cases), then run the installer (on Windows) or just copy over /Applications/Bitcoin-Qt (on macOS)
古い版を動かしているなら、まず止める。完全に止まるまで待ち(数分かかることもある)、それからインストーラーを実行する(Windows)か、/Applications/Bitcoin-Qt をコピーして置き換える(macOS)。
入れる版は、リリースノートのとおり、bitcoincore.org から入手します。BSDでの手順は、当校が保存した資料にはありませんでした。
次からの知らせの受け取り方。 同じリリースノートは、セキュリティと更新の知らせを受け取りたい人向けに、メールの登録先(bitcoincore.org の announcements)を案内しています。
7. この記事で言えないこと
実際に悪用されたか。 公表には、この弱点で止められたノードがあったかどうかは書かれていません。
影響を受けたノードの数。 Windows・macOS・BSDで動いているBitcoin Coreのノードがどれくらいあるのかは、公表に書かれていません。
影響を受ける版の範囲。 公表が示しているのは修正の入った版の番号だけで、どの版から影響があるのかは書かれていません。
ネットワーク全体への影響。 CoinPostは、開示の内容から「影響は個々のノードの停止で、ネットワーク全体が止まる性質のものではない」と説明しています(2026年10月30日)。開発者の公表が書いているのは「接続しているノードを止められる」ことと、深刻度が「中」であることで、「ネットワーク全体」についての言い方はありません。当校は、開発者の公表に書かれた範囲で書いています。
価格への影響。 この記事では扱いません。
塾長とミサキ(続き)
その夜、ミサキは、塾長から届いた公表のリンクと短い訳を、ソファで最後まで読んだ。
ミサキ
塾長ミサキはメモアプリを開いて「脆弱性」と打ち、少し考えてから「まず、自分が使ってるソフトかどうか」とだけ書き足した。
ミサキ
塾長今日できること
Bitcoin Coreを入れていない方
次に「脆弱性」の見出しを見たら、①何のソフトの話か ②自分はそれを動かしているか ③深刻度はどの段階か、の順で読む
今回なら、①Bitcoin Core ②自分で入れていなければ、動かしていない ③中(Medium)。コインを盗める段階(Critical)ではない、です。
Bitcoin Coreを動かしている方(ウォレットとして使っている方を含む)
① OSがLinuxなら、この問題の影響は受けない(公表のとおり)
② Windows・macOS・BSDなら、使っている版が修正の入った版(29.5・30.4・31.2・32.1)になっているかを確かめ、なっていなければ入れ替える
③ 入れ替えるときは、古い版を止め、完全に止まるのを待ってから入れる。入手先は bitcoincore.org
④ これからの知らせは、bitcoincore.org の announcements(メールの登録)で受け取れる
この記事の一次情報
英文の訳は当校によるものです。
一次情報(Bitcoin Coreの開発者の公表・決まり・リリースノート)
- Bitcoin Core「CVE-2026-117350 – Unbounded memory growth through TCP urgent data on non-Linux systems」(2026年10月28日公表):Linux以外で、悪意のある接続相手がTCPの緊急データを送るとノードのメモリが尽きうること。修正版は29.5・30.4・31.2・32.1。深刻度Medium・見つけやすい弱点。select()の経路だけが対象で、Linuxの利用者は影響を受けないこと。受け取りの一時停止をすり抜けてデータがたまる仕組みと、接続しているWindows・macOS・BSDのノードを簡単に止められること。AI(LLM)による自動の点検で見つかったこと。10月23日〜28日の年表。
- Bitcoin Core「Security Advisories」:深刻度の4段階(Critical・High・Medium・Low)の定義と例。見つけやすい弱点の扱い(修正版と同時にすぐ公表)と、ふつうの公表の時期。
- Bitcoin Core 32.1 リリースノート:更新の手順(古い版を止め、完全に止まってから入れ替える)。入手先が bitcoincore.org であること。セキュリティと更新の知らせのメール登録。
- Bitcoin Core「About」:Bitcoin Coreがフルノードのソフトとウォレットからなること。
二次情報(報道)
- CoinPost「ビットコインノード停止の脆弱性をAI発見 Windows・macOSに影響」(2026年10月30日):「影響は個々のノードの停止で、ネットワーク全体が止まる性質のものではない」という説明(第7章で、開発者の公表との言い方の差と一緒に紹介)。
この記事が確認していないこと
- この弱点が実際に悪用され、止められたノードがあったか
- Windows・macOS・BSDで動いているBitcoin Coreのノードの数や割合
- 影響を受ける版の範囲(どの版から影響があるか)
- 取引所やほかのウォレットのアプリが、Bitcoin Coreをどう使っているか
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この記事は情報提供のみを目的としており、特定の暗号資産・金融商品の売買や、特定のソフト・サービスへの登録・利用を勧めるものではありません。価格の見通しは示していません。
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